楔〜恋人岬〜


□†第9章:君が届かなくなるその前に
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人は、恋をすると強くなれるのだろうか?
それとも・・・
逆に、弱くなってしまうのだろうか?









*






第9章

君が届かなくなるその前に


〜Darkness of the mind〜







テーブルに、ズラリと並ぶ
大量のスペイン料理とチャモロ料理、フルーツ、ワイン、ココナッツジュース。
スペイン語とチャモロ語が飛び交う、貴族達の話し声・・・。
クニッツは、ワインをひとくちだけ飲み、テーブルにグラスを戻すと
バイオリン演奏を眺めていた。
ついさきほどまで一緒だったクレイは、淑女達に囲まれている。













「紳士、淑女の皆様・・・パーティーを楽しんでくれてますでしょうか?」








殿下は、咳ばらいをしてパチン・・・と
両手を叩くと、隣に立つ妃殿下の肩を抱いた。
お喋りに夢中だった貴族達が、一斉に二人へと視線を向ける。











「・・・お待たせ致しました。娘のプルメリアでございます。」









殿下は、手を伸ばし階段の上へとさした。
会場内が、一気にざわめく。










「・・・・・・!?」











クニッツは、床から階段のてっぺんにかけてひかれた
赤いカーペットからじょじょに、視線を上げた。
右端と左端に、一人ずつ女召使が立ち
孔雀の羽根を手にしてる。
殿下が大きく頷いたのを合図に、音楽が変わり
二人の召使は、深く頭を下げ一歩、二歩、三歩・・・と、後ろへ下がった。











_________プルメリア様・・・!?










煌びやかな孔雀の羽根の向こうから現れたのは
当然、王女であるプルメリアの姿だった。









「・・・・・・。」











何て、美しいのだろう・・・。
そう感じたのはクニッツだけではなかった。
会場内の誰もが、そう感じている。










真紅のドレスに身を包み、艶やかで長い黒髪を結いあげ、
彼女の髪を、金の髪飾りが輝かせている。
プルメリアは、会場内ぐるりと見渡すと、はにかむように微笑み
ドレスの裾を持ち上げ、膝を曲げてお辞儀をしてみせた。
それに対して、他の貴族達も皆、深々と頭を下げる・・・。













__________本当に、”プルメリア王女様”!?















クニッツは、優雅に歩くプルメリアに
ただ、ただ見惚れていた___________。










彼女は、王女。美しいのは当然かもしれない・・・
だけど、違うかもしれない・・・。
こんなにも美しい彼女は、まるで・・・













____________まるで、女神のようだ。












「・・・・・・・!」













ふと、二人の視線が重なり合った。
数秒間、二人は見つめ合い、プルメリアがほんの一瞬だけ
無邪気な笑顔を見せた。そして・・・クニッツだけに向けて
ウインクしてみせる。










ワルツを踊るカップルの間をすり抜けるようにして
お互いが、お互いの元へと歩み寄ろうとした。
もう少し・・・
もう少しで、恋人の元へ・・・・・。











「・・・クニッツ。」










珊瑚色の唇が小さく動き、恋人の名前を囁いた。
クニッツは、ゆっくりとプルメリアへと手を伸ばす。










「プルメリア王女、私と踊りませんか?」

「「!?」」












突然、風のようにクレイがクニッツの横を勢い良くすり抜け
プルメリアの手を握った。
・・・どうやら、一足遅かったようだ。
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