楔〜恋人岬〜


□†第8章:ずれて重なる時間
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第8章

ずれて重なる時間

〜Blueに染めて 〜











青学テニス部顧問の竜崎は
ひとつせきばらいをして、満足気に微笑んでみせた。






「とりあえず、氷帝を破ってベスト8まで来た。
昨日はよく頑張ったね!
今日はアタシのおごりだよ!」







竜崎の隣に立つ南は
「みなさん、お疲れ様でした!」と、微笑む。





レギュラーメンバー一行がやって来たのは
ボウリング場。
メンバー達は、試合での疲労を感じさせないほどにはしゃいでいた。








「おおーっ!いいっスね。ボウリング!」

「なーんだ。タカさんちの寿司のがイイーっ!」






「にゃははは」と、笑う英二に
大石が、すぐさま
「コラ、英二!そんな毎回、ご迷惑になるだろ!」と
ツッコミをいれた。






そんなゴールデンペアのやりとりを
河村と南は、笑い声をあげながら眺めている。











「たまには、気分転換になるな。」






と、手塚。







「それもそうですね。」






と、南が
笑いながら頷いた瞬間、二人の視線が重なり合った。








「・・・・・・。」

「・・・・・・。」









周囲の賑やかな声や
ボールが勢い良くピンをはじき飛ばす音すらも
消えてしまいそうな錯覚に陥りながら・・・。
南は、そっと手塚の元に歩み寄ると
黙ったまま彼の手からテニスバックを取り、自分の肩にかけた。








「おい・・・、」






手塚は、南が
重たそうにバックを持つのを見て、すぐに取り返そうとしたが
「ダメです。私が持ちますから!」と、聞こうとはしない。








「部長の左肩の負担を、少しでも軽くさせたいんです・・・。
これ位、させて下さい。」








寂しそうな顔をして俯く南。
手塚の胸の奥からは
ほろ苦く、甘酸っぱいものがじわじわとこみあげてきた。











__________抱きしめてしまいたい・・・








「・・・・・・・・。」








しかし、こんな場所ではそうもいかない。
手塚は、甘いテノールで「俺は、大丈夫だ」と、囁き
南の頭に手のひらを乗せ軽く叩く。








__________しかし・・・、









“これだけは、”言わないといけないだろう。
恋人であり、かけがえのない存在である南に
これ以上、心配をかけさせて悲しそうな顔をさせたくない・・・。










「南・・・、聞いて欲しいんだ。」







手塚は、耳元でそっと囁く。









「はい・・・。何ですか?」








ゆっくりと顔を上げた南は
真っ直ぐとダークブラウンの瞳を覗きこむ。









「実は、俺は・・・」









左肩の治療の為に
九州に行くことになったんだ。









「・・・・・・・?」









と、喉元まで出かかった言葉は
竜崎の声によって、かき消されてしまった。








「ほうら、決まりだ!
さっさとクツを借りといで!」
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