楔〜恋人岬〜


□†第6章:冗談にして逃げないで
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第6章

冗談にして逃げないで

〜Fly to your heart〜








不二の言う「デート」のせいで
手塚は、わずかな気まずさを感じていた。
南は、どう思っているのだろうと。






「・・・・・・・・。」







自分は、不二のからかい症に既に慣れっこ。
だけど、南は・・・?







「大石先輩達も来れば良かったのに・・・。」

「・・・・・・!」









手塚の気まずさと、沈黙を破るかのように
南が、口を開いた。
「ね?部長も、そう思いませんか?」と。






「ああ・・・。どうも
都合がつかなかったらしいぞ。」

「あ、何となくわかった・・・!」

「何となく・・・?」





手塚は、怪訝そうに眉を寄せた。
南は、悪戯っぽく声を潜めて笑う。








「うーんと・・・、まず〜・・・、
乾先輩は、データの整理で忙しいから
ディズニーシーで遊ぶどころじゃない。」

「ああ。」




有り得る。






「で、海堂君は
休日こそトレーニングに励む。」

「ああ。」





それは、有り得る。






「タカ先輩は、お店のお手伝い。」

「ああ。」





それも、有り得る。





「大石先輩は、アクアリウムショップへお買い物。」

「ああ。」





やはり、それも有り得る。





「もう!部長、さっきから「ああ」しか、言ってないですよ?」

「ああ。・・・!」

「ほら。」








南は、笑い声をあげた。
まるで、鈴を転がしたように。






「すまない。なかなか鋭いなと思ってな。」

「勘ですよー!勘。」

「・・・鋭い勘だ。」





「えっへん!」と、
笑ってみせた南。








「あ!そうだ・・・!部長、
ディズニーシーは、初めてですか?」

「・・・ああ。そうだな。
・・・おまえは、何度か来てるんだろ?」

「モチ!女テニの友達と何度も来てるので
ガイドマップいらずですよ。」

「ほぅ・・・。それは、頼もしいな。」

「道案内なら、任せて下さい!」








南が飛ばすジョークと笑い声を聞きながら
手塚は、そのあとに続き
パークへと繋がる・・・いわば、
冒険とイマジネーションの海へのゲートをくぐった。






カップルがやたらと目立つ場所だけれど
この二人も、傍から見れば恋人同士かもしれない。
















「・・・おい。」

「え?」

「いつまで、思い出し笑いをしているつもりだ。」

「だ、だって・・・」






一通りの、アトラクションに乗り、ショーを観たのち
ベンチに並んで座り、ジュースの入ったカップを手にする二人。
南は、手塚とゲートをくぐる直前の”ある出来事”を、思い出し
お腹を抱えながら、笑い声をあげていた。









「笑いすぎだぞ。」






そう言って、手塚がガイドマップで南の頭を軽く叩いても
彼女は、なおも笑う。
笑い転げる勢いで、カップに入ったジュースがこぼれ落ちそうだ。






「ご、ごめんなさ・・・、でも・・・だって
あのキャストさん・・・部長のこと疑りすぎなんですもん・・・。」







笑って、笑って、笑いすぎたせいで
南は、息も絶え絶えな様子。
本来、これが英二達だったら
喝を入れるべきだけど、南がこんなにも笑うのは
見ていて、悪い気はちっともしなかった。





「・・・もう、慣れている。
今に始まったことじゃないしな。」

「で、部長が生徒手帳出した瞬間・・・
すごく驚いてましたよね。」







180センチの長身に、クールな雰囲気。
手塚が、”中学生”に見えないのも無理はない。
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