楔〜恋人岬〜


□†第3章:沈黙後の言葉
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第3章
沈黙後の言葉

〜憂鬱王子&おてんば王女〜









この島の
空、海、風、土、砂・・・。
クニッツにとって、全てが愛しかった。





数年前に亡くなった祖父は、こう言ってたっけな・・・と
昔を思い出すようにして
クニッツは、愛馬に跨ったまま空を見上げ
瞳を閉じる。










いつか、おまえもこの目でしっかりと見ろ。
この島の美しさを・・・。












___________確かに、この島は美しいな。










「おじいさん・・・。」





ダークブラウンの瞳をゆっくりと開き
今は亡き祖父を思い出すクニッツ。








自分は、この世のに生まれてからの14年間
今まで両親の顔を見ずに育った。
そんなクニッツを祖父は実の親のように、愛情を注いで育ててきたのだ。
乗馬を教えてくれたのも祖父だったし
剣の扱い方も祖父から習った。
腰にぶら下げた短剣は、祖父の形見でもある。









「・・・・・・・。」








クニッツは、短剣を引き抜き
しげしげと眺めた。
鋭い刃先が太陽の光を浴びて、宝石のように輝いている。
それを再びしまいこむと、クニッツは馬から飛び降り
生い茂る草を踏みしめゆっくりと歩いた。
辿り着いた場所は、岬。





クニッツの愛馬、セラフィーナは
青々とした草をほお張っている。
そんなセラフィーナをチラリと見やってから、青い海を見おろした。
潮風が茶色い髪を揺らす。












「プルメリア王女・・・か。」








髪を撫でつけながら、空を見上げ
つい先ほど出会ったおてんば王女を思った。
まるで、この青い空にプルメリアが浮かんでるかのように・・・。







___________まさか、”王女”だったとはな・・・。








長く艶やかな漆黒の髪。
鈴の音のような声。
無邪気な笑顔。
宝石のように輝く瞳。
それは、王女として申し分のない美しさだった。
だったけれど・・・








暴走した馬に必死にしがみつく様が、印象強く残っていた。








__________無茶なことをする姫君だ・・・。







思い出し笑いが「クス」っと、こぼれた。
誰もいなし、見ていないのに
クニッツは、咳ばらいして口元に力を込めた。
そして・・・、






「ん?この香り・・・」






潮風が、甘い香りを運んできた。
周辺を見回すと・・・









___________あった・・・!







そう。プルメリアの花があちこちに咲いていたのだ。
深緑の葉にまじりながら。
クニッツは、身を屈め、甘い香りを吸い込んだ。
そう言えば・・・、
この花を王女は長い髪に飾っていたっけ・・・。







「ふむ・・・。」




ひとつを摘んで、指先でくるくるまわす。






「・・・綺麗な花だ。」







王女と同じ名前の、この花。
クニッツは、瞳を細め花びらに口づけを落とす。







もし、できることなら・・・











もう一度、王女に会いたい・・・と。








「・・・・・!」







__________いかん・・・!

_____________何を考えているんだ!?俺は・・・





ハッと、ダークブラウンの瞳が見開かれた。











もう一度、王女に会いたい!?
できるわけがない・・・!
自分は、身寄りも家もない貧しき者。
プルメリアは、この島の美しき王女(その美しさは
スペイン人、チャモロ人の両方を虜にするほど。)
本当だったら、まともに顔を拝見することだってできないのだから。








「・・・・・・!」








突然、強い風が吹いたかと思えば
プルメリアの花はクニッツの手からすり抜けるようにして
飛んで行った。
遥か彼方、青い海と空に向かって_____________・・・。
クニッツは、とっさに手を伸ばしたが
すぐに引っ込めた。










「届くわけがない・・・ってことか。」









花も、王女も。











クニッツは苦笑いをもらし、セラフィーナの鬣を撫でた。
セラフィーナはひたすら草をほお張っている。











「さぁ、食事は終わりだ。
今夜の寝床を探しに行こう。」
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