楔〜恋人岬〜


□†第2章:ギリギリまで錯覚させて
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第2章
ギリギリまで錯覚させて

〜恋は盲目〜













「グラウンド20周!!」







テニスコート中に、手塚の張り上げた声が
今日も響いている。








一年が経ち、青学男子テニス部は賑やかになっていた。
それはもう、騒がしいほど。
何かにつけてケンカし始める2年レギュラーの桃城武と海堂薫。
(あまりの剣幕に、誰も手がつけられなくなる。)
そして、生意気一年ルーキー
越前リョーマ。
この三人、テニスプレイヤーとしては抜群なのだけれど
すぐにトラブルを起こし、手塚の頭を悩ませていた。











「手塚部長〜!」

「・・・ん?」







ハイテンションな声で名前を呼ばれ、その声の主を視線で辿うと
そこに立っていたのは
クリップボードを手にする、ジャージ姿の南。






「これ、今日の練習メニューです。
部室のホワイトボードにも書いておきましたけど
手元にあった方が、部長もみんなに指示が出しやすいかなって思って・・・」

「ふむ・・・、」









組んでいた腕をほどき
片方の手をジャージのポケットに突っ込み
クリップボードにある練習メニューをしげしげと眺める。






「あ、ご、ごめんなさい・・・
お節介でした?部長でしたら、こんなのなくてもいいですよね・・・」

「いや、そんなことはない。」








ただ、南の文字は
やたらと丸く小さく書くものだと思っていただけ。
(中学生の女子らしい癖字だ。)






「助かる。ありがとう・・・。」







と、受け取ったクリップボードを小脇に抱える手塚。






「はい・・・!じゃあ、私
みんなの分のドリンク準備しますので、これで・・・。」

「ああ。ご苦労。」









パタパタと走り去る南の後ろ姿が小さくなるまで
手塚は、じっと見つめていた。







__________プルメリア・・・?








一年経っても、夢とペンダントの謎は解けないままだ。
そして・・・南を
「プルメリア」と、何度も呼びそうになってしまう自分。
彼女を目の前にすると、鼓動が高鳴る自分。
これは、本当に不思議で謎に包まれたままだったが
手塚自身、謎を解こうと焦ったりはしていなかった。








__________今は、”テニス”だけ考えるんだ・・・!









そう。今だって、これからだって・・・
幼い頃からひたすらテニスの道を突き進んで来たのだ。
テニス部部長になったのだから
今度こそ、全国制覇・・・!
“わけもわからないこと”に、うつつを抜かす暇などない。






「桃と海堂を走らせてたのは、君なのかい?」







練習試合を終えた不二が、微笑みを含んだ声で
仏頂面の手塚の元へと歩み寄って来た。






「・・・ああ。ケンカ騒ぎを起こしたバツだ。」

「相変わらずだね、あの二人は・・・。」








「しょうがないなぁ」と、不二は笑う。
青い瞳を向けるその先には、がむしゃらに走るライバルコンビ。
手塚もそんな二人を遠目にじっと見つめた。
ケンカ騒ぎを起こして走らされていると言うのに
桃城は「どけよコラァ!マムシ!」と、怒鳴りちらしながら走っている。
当然、海堂も黙っているはずがなく「うるせーよ!タコ!」と
怒鳴り返している。
やれやれと、深いため息をつきながら手塚は視線を逸らした。
これ以上見ていられない・・・と、言わんばかりに。









「・・・・・・!」






と、視線を流した瞬間
数メートル先にいる南の姿が目に飛び込んできた。
スポーツドリンクの入ったボトルを並べ
「にぃーしぃーろおやー」と、人数分あるかの確認をしている最中らしい。








「南ちゃん・・・、」






手塚の思いを見透かすかのように
不二が、静かに口を開いた。






「だいぶ、マネージャーが板についてきてるよね。」






手塚は、静かに頷く。








「ああ・・・。一年経ったからな。
随分慣れてきただろう・・・。」

「それにしても、君達は”随分”と
仲が良いみたいだな。」
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