楔〜恋人岬〜


□†第9章:君が届かなくなるその前に
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「・・・・・。」

「いかがでしょう?それに・・・
今宵のあなたはとてもお美しい。会場中の男性を虜にしてしまうほど・・・。」











クレイは、プルメリアの手の甲に口づけをした。
・・・なんて、お似合いなカップルだろう。
クニッツは、落胆した気持ちを押し隠すかのように、二人から後ずさった。









「・・・ありがとうございます。クレイ総督。
でも・・・私・・・」









プルメリアは、そっとクレイに握られていた手を離すと
「ごめんなさい」と、囁く。
クレイは、納得いかない様子で眉をピクリと動かした。











「一緒に踊りたい方は、もう決まってるんです。」

「ほぅ・・・。それはそれは・・・。
それで?プルメリア王女がダンスのお相手に選んだ男性は
一体、誰なんです?」

「・・・彼よ。」

「!?」










プルメリアは、じっとクニッツを見つめた。








「彼・・・とは、あそこにいる彼ですか?」

「ええ。そうです・・・。
クニッツ・・・。」










ドレスとペチコートの裾をサラサラと鳴らしながら
プルメリアは、クニッツの目の前に立つと
そっと、微笑む。










「・・・クニッツ、私と踊って下さる?」

「・・・・・・・・!」








彼は、プルメリアからクレイへと
視線を向けた。
クレイは、どこか含みのある笑みを浮かべている。








「よかったじゃないですか、クニッツ。
プルメリア王女直々の申し入れですよ?
踊って差し上げたらどうです?」







クレイのその言葉に、クニッツは。再び
プルメリアへと視線を戻した。
「ダメ・・・?」と、彼女は首を傾げる。








「いえ・・・っ。そんな・・・とんでもございません。
とても光栄です。しかし、僕は
ダンスなんて初めてで・・・その・・・」

「なぁ〜んだ・・・そんなこと・・・」









と、クスクス笑うプルメリア。







「ステップとかそんなもの、気にしていたらダメよ。
ダンスなんか、楽しく踊れればいいの・・・!ね?」









無邪気に笑うプルメリアが、可愛らしくて、愛しくて
ついに、クニッツは降参してしまった。
そんな彼女に、そっと微笑んで・・・「わかりました」と、頷く。









「では、お姫様・・・お手をどうぞ。」








右手を後ろにまわし
左手を王女に差し伸べて、軽くお辞儀する。








「ええ・・・。喜んで。」









逞しい手と、小さな手が重なった。
それと同時に、2曲目のワルツが流れ出す・・・。
クニッツは、おぼつかない足取りだけれど
確実にプルメリアをリードしていた。















「何だ・・・クニッツってば、
ダンスお上手じゃない。」

「そうですか・・・?僕は、今にも
プルメリア様の足を踏んでしまうのではないかと心配です・・・。」

「あら、それなら心配ご無用☆」

「・・・え?」

「踏まれたら、踏み返しちゃうから!」










そんなジョークを飛ばし合いながらも、二人は
ひたすら見つめ合いながら踊って・・・、踊って・・・
踊り続けた。
それぞれの瞳に、恋人の姿だけをうつしながら・・・。











「・・・・・・・・。」






クレイは、ワイングラスを片手に
完全に二人だけの世界に入り込んでいる恋人同士を遠目に見つめていた。
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