楔〜恋人岬〜


□†第8章:ずれて重なる時間
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「おい、大丈夫か?」







南は、青白い顔のまま懸命に頷く。
そんな彼女を見た手塚は、眉間に皺を寄せて「嘘をつくな」と
囁き
半ば強引に自分の隣に座らせた。






原因は・・・、そう
乾特製ドリンク”青酢”。
“あの”不二ですらも破壊してしまった恐ろしいドリンクだ。









「部長・・・、」

「ここで大人しく座っていろ。いいな?」







立ち上がろうとする南の細い肩をおさえて
手塚は、席を立ってどこかへと行ってしまった。








「これはまた、すごい状態になってるね。」

「あ、河村先輩・・・」








青酢パワーでグッタリとしている
不二、海堂、英二をチラリと見やって、河村は頭を掻きながら
苦笑いした。
「隣、いいかい?」と、尋ねる彼に
南は、青白い顔のまま微笑み、少しばかり腰を浮かせた。








「それにしても、女の子にまでも青酢を飲ませるなんて
乾も手加減しないんだね・・・。」








ついさっきまで、手塚が座ってた席。
南の隣に腰をおろした河村は、怪訝そうな顔で乾を見つめた。
乾は、「中央のピンを狙えば、ストライクの確立100%」などと
ブツブツいいながら、ボールを手にしている。
・・・ボウリングでもデータをフル活用している様子。








「勝負は勝負ですからね。桃とおチビに頑張ってもらいますよ。」










「あはは」と、笑う声は力なく頼りない。











「・・・これを飲め!」

「ひゃ・・・っ!」








突然、背後で手塚の声がしたかと思えば
頬に冷えたペットボトルをあてられた。
南は、クリスタルガイザーの入ったペットボトルを
手塚から受け取ると
よろよろと立ちあがり、バックから財布を引っ張り出そうとした。
「金はいいから、飲め。」と、手塚はそれを制する。










「ん・・・すみません。ありがとうございます・・・。」









キャップをひねろうとしたものの
青酢が、まだ効いているせいか手にも、足にも、が入らない。
それを見た手塚が、南の手からペットボトルを取り上げると
いとも簡単にキャップを取り外してみせた。
ミネラルウォーターで、未だ
口の中に残る青酢の味を流し込むと、いくらか気分が楽になれた。











「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」










一気に3分の1ほど飲み
ペットボトルを両手で包みこみ、大きく息を吐いて
椅子に深く座りなおした南。
険しい顔つきの手塚と目が合った。










__________そう言えば・・・










さっきの手塚は、自分に何を言おうとしていたのだろう?
・・・気になる。
しかし、隣には河村もいるし
すぐそばには、他の仲間達もいる。これでは、聞くに聞けない・・・。
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