楔〜恋人岬〜


□†第6章:冗談にして逃げないで
2ページ/8ページ




「・・・俺は、」

「え・・・?」






南は、滲み出た涙を拭い
手塚へと視線を向けた。






「そんなに老けているか?」

「”老けている”んじゃなくて”大人っぽい”んですよ。」






と、南。
満面の笑みで微笑み、アップルティーソーダーを
ひとくち飲む。








「そうなのか・・・?」

「そうですよ!それに・・・」

「それに・・・何だ?」

「私は、そんな部長がカッコイイと思いますもん。」

「!?」







手塚が、目を丸くしたのを見て
南は「あっ!」と、口元に手をあてた。






「あ、あー・・・えーと・・・
次、どこに行きます?」







アップルティーソーダーを飲み切り
空になったカップをゴミ箱へと投げ捨てて、南は
立ち上がった。








「おまえに任せよう。俺には、初めての場所だし
どこに何があるのかもわからんしな。」

「そうですかー?じゃあ〜・・・、あれ?」







ハッとした南は、目を丸くして
辺りをキョロキョロ見回した。
“何か”を、感じたのだ。







「・・・どうかしたのか?」

「あの、何だか・・・今・・・、」

「ん?」

「うーん・・・何でもないです。
気のせいみたい・・・じゃあ、次の場所に行きましょ!
買いたい物があるんです。」







・・・実際、
気のせい。では、ないかもしれない。


















「・・・随分と買いこんだようだな。」

「だってー・・・、どれも可愛くて
目移りしちゃったから・・・。それに
友達に頼まれた分もありますし。」








でかでかとしたショップ袋をぶら下げた
南は、満足そうに微笑んだ。







「それで、その荷物か・・・。」







手塚は、南とショップ袋を交互に見比べた。
彼女の体が小さいせいで、やたらとショップ袋が大きく見える。









「重くないか?」

「平気ですよー!だって、重たくなる物は買ってないですし♪」








そう言いながらも「よいしょ」と
南は、荷物を持ち直す。やはり、多少は重たいに違いない。
手塚は、小さな手から荷物を抜き取り自分の手に持った。








「・・・部長!?」

「俺が持とう。」

「そんな・・・悪いですよ!後輩の私が
“部長”に、荷物持ちさせるなんて・・・。」

「おまえのことだ。どうせ、まだ何か買い物をするのだろ?」

「・・・・・・!」







実は、図星。







「これくらい、どうってことない。遠慮するな。
“荷物持ち”も、トレーニングの一環だ。」

「部長ってば、”ここでも”テニスのこと考えてるんですね。」








思わず、吹き出してしまい「あははは」と
南は、笑う。







「・・・おかしいか?」

「うううん。部長らしいなーって・・・。
・・・って・・・ぁー!」

「・・・!?突然、どうした?
大声を出して「アレ!アレ!」

「アレ・・・?何だ?」

「部長知りません?ダッフィーちゃんですよ!」








Tシャツの裾をずるずると引っ張られるようにして
二軒目の店へと突入。
(赤い壁に白い窓枠がカントリーチック。)








「・・・知らん。」

「人気なんですよー?ほら、これがダッフィーちゃん!
可愛くないですか?」







「ほら」と、南が
手塚の前に突き出したのは、カフェオレのような、ミルクティーのような
そんな感じの色をしたテディベアだ。
真っ黒でつぶらな瞳は、愛嬌たっぷり。







「部長?」

「・・・ん?」

「今、バカにしたように笑いませんでした?」

「そうか?」

「そうですよ。私だって、部長が笑ったなーって・・・不二先輩みたいに
わかりますもん。」







と、珊瑚色の唇を尖らせる南。








「笑ってしまったことは、認めるが
バカになどしていない。・・・ただ」

「ただ・・・?」








“ダッフィー”を、小脇に抱え
ずい・・・と、ダークブラウンの瞳を覗きこんでみた。









「その、熊のぬいぐるみが・・・だな
おまえにソックリだと思った。」

「それって、私・・・
褒められてるんですか?」

「俺は、褒めてるつもりだが?」








実際、こうして南がテディベアを抱えているのを見ると
まさしく、瓜二つだ。
愛嬌たっぷりな雰囲気と、つぶらな黒い瞳・・・。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ