楔〜恋人岬〜


□†第1章:二人の間には、いつも
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「何処へ行ったんだ!?
こたえてくれ・・・・っ!」














「・・・・・!?」




自分の寝言で目が覚めた手塚。




「・・・・・・。」




未だ、重い瞼をこすり
枕元に置いた眼鏡に手を伸ばす。




「夢・・・か。」




空も海もどこにもない。
視界に入るのは、
見慣れた自分の部屋だけだ。



カーテンから、朝日が差し込み
小鳥のさえずりも聞こえる。



布団を蹴り飛ばすようにして
ベッドからおりた手塚は、
カーテンを開いた。




________・・・しかし



パジャマを脱ぎ、シャツに腕を通しながら
思考を巡らせる。




________あの夢=E・・。




これで、何度目だろう。
最近になって(2年に進級してからだ)
度々見るのだ。



毎回、同じ内容。


謎の少女は、囁きかけ
消え去ってしまう・・・。



________誰なんだ?アイツは・・・



夢の中と言うせいか
顔は、思い出せない。



しかし、背丈や雰囲気からして
自分と近い年齢だろうとは思う。
それ以外で、覚えているのは
艶やかな長い黒髪だ。




















今日は、休日。
珍しくテニス部の練習もない。


しかし、何もせずに家にいて
たかが夢のことであれこれ悩むのも
バカバカしい・・・。


手塚は、大きく息を吐くと
畳まれた制服の隣に置いてある
銀色のペンダントをつけた。
(普段、何気なくつけている
唯一のアクセサリー。)





_______本屋にでも行くか・・・。




気分転換にもなるし
新刊チェックもできるだろう。






「あら?国光、今日はテニスの練習
お休みなの?」





洗濯物の入ったカゴを抱えた手塚の母親。
彩菜は、二階の部屋から出て来た
自分の息子の服装を不思議そうに見つめる。



普段は、ジャージに
テニスバックを持つ姿が当たり前だった。



しかし、今日の手塚は違う。



ラケットの入ったバックなんか
持っていないし、
ジャージ姿でもない。



オフホワイトのTシャツに
ラベンダー色のシャツを羽織り
ジーンズを履いている。
そして、銀色のペンダント。





「はい。なので、今から
駅前の本屋に行って来ます。」



「では」と、言って
スニーカーを履いた。




「なんだ・・・そうなの?」



彩菜は、「ふぅ」と
少しばかり残念そうなため息を吐く。



背後で、彩菜が残念がることを感じて
手塚は、玄関の扉に手を伸ばす前に
母親へと振り向いた。




「母さん・・・?」



何故、そんな風に
ガッカリされるのだろう・・・?




「あなたもお年頃なんだし
せっかくのお休みは、女の子と
デートすればいいのに・・・。」

「・・・・!?」




デート!?



そんな提案をされて、手塚は
目を丸くした。
瞬きすることすら、忘れてしまっている。


彩菜は
息子の反応を楽しんでいるかのように
笑い声をあげた。





「彼女くらい、いるんでしょ?」
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