夢小説 ATTACK ON TITAN


□3話
2ページ/6ページ

リヴァイ兵士長に引きずられるように視線のなかをくぐり抜ける。
手にこめられた力は痛いほど強い。
ジャンとずっと目が合っていたけれど、 逸らすことができなかった。

「あの……、 腕、 痛いです」

リヴァイ兵士長が手を離してくれた場所で私たちは立ち止まる。
レンガ造りのアーチ橋の上で。
リヴァイ兵士長はやれやれと言いたげなため息とともに、 橋の袂に凭れた。
私はおずおずと隣に立つ。
川の水は濁っていたけれど、 鏡のように橋のアーチとそこに立つ私たちを映していた。

「……どっ、 どうしてここにいらしたんですか?」

あの日からずっと、 この人に会いたくて会いたくてたまらなかった。
伝えたいことがたくさんあったはずなのに、 鼓動が突き上げるたびにこぼれ落ちてしまい、
うまく言葉にできない。
このもどかしさを、 どうしてくれよう。

「おまえが訓練兵になったと知って、 どんな面してんのか拝みに来た。
ただそれだけの気まぐれだ」

リヴァイ兵士長が横目で私を見る。
私は胸の奥が熱くなり、 ちりちりと焦げてしまいそうだった。
この人がきてくれるなんて夢にも思わなかったからだ。

「チビだったガキがでかくなったじゃねぇか、 あれから四年も経つのか……」

「あのときあなたが助けてくれたから今もこうやって生きてます。
あなたに会うまでの私は毎日死んだように生きてました……。
だけどあのとき、 あなたに助けてもらってから精いっぱい生きようと思ったんです……!
どんなに残酷な世界でも。
こんな私でも一応、 夢はあって……そのためにも生きようと、 強くなろうと。
だから兵士になったんです。
そして……胸を張ってあなたに______リヴァイ兵士長に会いにいこうって、 ずっと思ってました!
私の命は……心臓は、 リヴァイ兵士長に捧げたも同然です!」

リヴァイ兵士長は眉根を寄せる。
突然こんなことを言って驚かせ、 困らせてしまったのだろう。
だけどこれは私の本心だ。
リヴァイ兵士長がほう……と言い、 ぐるりと体の向きごと正面から私を見つめた。

「まるで俺に惚れたみたいな口振りだな」

「ちっ、 違______!
そう言う意味で言ったわけじゃ……、」

「冗談だよ、 ムキになるな。
俺だって小便臭いガキに興味はねぇ」

リヴァイ兵士長の口調が荒っぽいのは承知なのに、 なぜかこの言葉には私の心に少なからずショックを与えた。 ちくっと痛む。
まだ市街模擬戦の真っ最中らしい。
橋の上に立っていると誰かが立体機動で飛ぶ姿が遠くに見える。

「……エミリ、 おまえが今、 生きているのは俺が助けてやったからだけじゃねぇ。
おまえが強いからだ」

エミリ______。
リヴァイ兵士長の声が私の名前を呼ぶ。
聞き慣れた自分の名前なのに不思議に感じ、 呪文のようだ。
私の頭のてっぺんに置かれた手、 あのときのように。

「弱い奴だったら生き残れねぇ。 兵士になったんだからわかるだろ?
あれからずっと……よく耐え続けて来たな」

大きな手が、 がしがしと私の頭を撫でる。
泣きたくなった。 悲しいのに嬉しくて、 嬉しいのに悲しくて。
唇をぎゅっと噛んで涙を堪えた。

「私、 這い上がることを絶対に諦めません……っ!
あともう一年、 がんばって卒業します! 立派な兵士になってみせます!」

大きな手で頭をつかまれるように引き寄せられる。

「エミリ、 調査兵団に入れ」

リヴァイ兵士長の目は怖いくらいだった。
怖いくらいに真剣で、 まっすぐだった。
鏡のような水面は吹いてきた風で揺れ、 橋も私たちのシルエットも見えないほどに歪ませる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ