ツインソウル


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「まあまあ、」




勿体ぶっているのか、 セツコはなかなか教えてくれない。
大袈裟に頬を膨らませながらも、 マリコはじっと熱心にセツコの昔話に耳を傾けていた。

とてもとてもゆっくりだったけれど、 ふたりの距離は縮まっていた。
ただひとつ、 お互いに気持ちを伝えていないことを除けば。




「ホグワーツの卒業まであと一年ってくらいだったかしらねえ・・・・」




セツコの眉間にぎゅっと深いしわが刻まれた瞬間を、 マリコは見逃さなかった。




「戦争がはじまった。 だからおばあちゃん、 それを知ってすぐに日本に帰ったよ。
おばあちゃん以外にも、 家族がマグル界に住んでるひとは何人か
それぞれの故郷に帰ったね。 臨時にでた汽車で・・・・。
魔法界は戦争なんかなかったし安全だったけど、 今はもうとっくに死んじゃったけどね
自分の親・・・・それから、 おじいちゃんのことも心配だったし。
どんなに危険でも日本に帰るしかないって思ったね。
・・・・ホグワーツではそれっきり。 卒業式すらいくこともできなくてね・・・・」




帰国したセツコは久々の生まれ故郷を目にして、 愕然とした。
事態は予想をはるかに上回っていたのだ。

帰国早々、 両親の無事を確認して安心し、 すぐにタケオにも会いにいったのだ。




「セツコ。 俺、 召集されたんだ。 御国の為に俺も、 敵国と戦いにいく」




その言葉を聞いた瞬間、 セツコは震えが止まらなかった。
ついには、 小さい頃からずっと一緒だったタケオさえも______。




「・・・・ちゃんと、 生きて帰ってくるわよね?」




その言葉に、 タケオは敢えて答えなかった。




「しばらくは会えん。 会えんから・・・・もう、 変な意地張るのは止めだ。
・・・・セツコ、 よく聞いてな。 
俺、 ずっと・・・・小さい頃からおまえのこと好きだった。
他の女子なんか目に入らん。 ずっと、 おまえだけ見つめてた。
いつか、 大人になったら・・・・おまえを俺の嫁さんにしたいって密かに思ってた」




セツコは嬉しかった。 悲しかった。 涙が溢れて止まらなかった。
なにをどう言葉にしていいのかわからなかった。
自分もずっとタケオを思っていた。
タケオも自分を思ってくれていたなんて嬉しくてたまらなかった。
それなのに、 戦争で引き離されてしまう______。




「私、 待ってるから! ずっとずっと待ってるからね!」




セツコがタケオに伝えられた言葉はそれだけだった。
そうして、 タケオは故郷を離れ、 戦地へと向かっていった。




「どおーして・・・・、 マグルはこんな醜い争いをつづけるのか・・・・。
毎日毎日考えて泣いていた。
幾人ものひとが殺し合って死んでゆくし・・・・・・」




当時の心境をふり返ってセツコは言う。

マリコは俯き、 瞳に涙を溜めていた。
やっぱりマグルが憎い。 マグルは醜い。 許せない。

セツコは命の危機を感じ、 飢えと喉の渇きを感じ、
タケオが無事でいることをひたすら祈るように毎日を過ごしていた。
永遠にすら感じるように果てしなくつづく戦争______




「故郷に無事帰ってきたひとの方が少なかったねえ・・・・」




セツコが言うに、 召集された若い男たちのほとんどは戦争マラリアか戦死。
敵の攻撃にやられてしまう者もいれば、 マラリアに感染して命を落とす者。
どちらも後を絶たなかった。
死者の数は凄まじく、 それ故に遺灰や遺骨が遺族の元へ帰されることはなかった。
例えば、 髪の毛だけとか、 身に着けていたものだけとか、 
遺族に帰されるのはそれだけだ。

親戚や知り合いの若い男たちのものが小さな箱に入って帰ってくる。
タケオのものも、 もしかしたらあの小さな箱に入って帰ってくるのかもしれない。
考えるだけで恐ろしいけれど、 セツコは何度も考えてしまったと言う。




「生きていても、 生きてる心地なんかしなかったねえ・・・・。
それどころか、 自分が死んでるのか生きてるのかすら・・・・
それすらわからなくなったときもあったし・・・・」




セツコの声は涙ぐんでいた。




「だけど・・・・おじいちゃんは無事帰ってきてくれたよ。
あちこち怪我してたけどね。 ちゃあーんと帰ってきた!
帰ってきたおじいちゃんの姿を目にした瞬間、 もしかしたらおばあちゃん、
気づかないうちに死んじゃってて、 おじいちゃんが迎えにきてくれたのかもしれないって思ったよ。
でも違う。 おじいちゃんは無事に生きて帰ってきてくれた・・・・!」




マリコは涙ぐんでいることをセツコに悟られまいと鼻をすする。




「あとから聞いた話しだけどね・・・・おじいちゃん、 厳しい訓練を毎日毎日
たぁーっくさんつづけて戦っててね、 どうにか生き残れたものの
よし、 じゃあ、 今度は戦闘機に乗ってってアメリカと戦うぞ! って、 とき・・・・。
おじいちゃん、 ああ今度こそ死ぬだろうって思ってたらしい。
おばあちゃんだってそう思うわ。
だけど・・・・その翌日に戦争終了が言い渡されたってことよ。
だからきっと、 奇跡だね」

「・・・・そ、 そっか。 よかったね。
それで・・・・おじいちゃんとおばあちゃん、 無事に結婚できたんだ?」




そのあとに待っているのはハッピーエンドだと思っていた。
だけど違うらしい。
セツコは頭をふる。
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