それぞれのSweet day's


【第四弾 切原赤也編】
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【第四弾 切原赤也編】



バレンタインはキスと共に




学級日誌を提出して教室へと戻ると、 ドアから話し声や笑い声が漏れていた。
そこから先に入ることはできず、 私はドアに伸ばしかけた手を引っこめた。




「参っちまうよなぁー・・・・いきなり渡されたんだもんな」




その声の主が赤也であったことに驚き
そっと、 気づかれないように中をのぞく。
赤也の手には私が今日、 渡したチョコ。




「え!? じゃあアイツ、 切原のこと好きだったってことか?」

「おい! とかなんとか言いながらも、 おまえもアイツのこと好きだったりしてー?」




赤也の他に同じクラスの男子もふたり、 いた。




「バッ、 バカ・・・・! そんなんじゃねえよ!」




______ひどい・・・・っ!




赤也に渡したあのチョコ。
初めてがんばって手作りしたのに。 義理以外で男の子に渡すのは初めてだったのに。




『サンキュウな!』




そう言って赤也は笑顔で受け取ってくれたのに、 あれは上辺だけだったんだ。
こうやって陰で私を笑い者にするなんて____・・・・

腹が立った。 悔しかった。
何よりショックだったのは赤也の話を聞いたふたりが、 
翌日には私が赤也を好きだと言う噂をばら撒いたのだ。

中学一年。 当然ながらそう言った話を出されてはからかわれる。
彼らはそう言った噂でからかうのを楽しむように。

もう誰にもチョコなんて作らない。 渡すもんか。

人の噂もなんとかで、 二年へと進級したときにはそんな噂もクラスから消え去っていた。
それでも私はあのときの屈辱を忘れない。 あのときの赤也も許すものかと。




「ね、 ね、 今年もチョコくれるでしょ?」

「あ・ げ・ な・ いっ!」




いったい赤也は何を考えているのだろう。
今年もバレンタインが近づく時期となると、 赤也はそんなことを言い出し
私にまとわりつくのだ。




「えー!? ケチー!
いーじゃん! いーじゃん! くれたっていいじゃねえか」




毎日毎日、 こんなことのくり返し。
もう、うんざり。
誰のせいだと思って言ってるんだか。




「ねえ、 本当にダメなわけ?」

「何? まだ教室に残ってたわけ?」




同じ質問に答えることをばかばかしく感じつつあった放課後。 
憂鬱な気分で日直業務を終えて教室へと戻ると
テニスバックを肩にかけて自分の机の上に座る赤也がいた。




「俺、 アンタからのチョコが欲しい」




赤也は私の問いには答えず、 相変わらず会話は一方通行。
チョコチョコとうるさい赤也を半分無視して、
私は鞄に荷物をつっこみ、 部活へ行く支度を整えた。




「ねえってば! おい! 俺の話聞いてる?」

「あのさあ・・・・赤也、」




ある意味いい機会だと思った。 放課後の教室にふたりきり。
きちんと話しておくべきだと。




「ん? くれる気になった?」




立ち上がり、 軋む音をたたせながら椅子を机にぴったりとくっつける。
視線は赤也に止めたまま。




「何なの? 何がしたいの? “去年と同じように”
他の男子と揃って私のこと笑いものにしようと思ってるわけ?」




私の言葉に、 赤也の動きが全て制止する。
瞬き。 呼吸。 貧乏ゆすり。 髪をいじる手。




「知っ・・・・、」

「うん。 見たくも聞きたくもなかったけどね」




赤也は何も言わなくなった。




「あのあと、 噂流されて、 男子たちにからかわれて・・・・
どうせ、 赤也なんか私がどんな気持ちでいたかわからないでしょ?
あれでも一応、 一生懸命作ったチョコだったの。
バカにされて、 笑い者にされるくらいなら・・・・私はもう決めたの。
誰にもチョコは作らないし渡さないってね。
・・・・言いたかったことはそれだけ。
じゃあ私、 もう部活行くから」

「・・・・待てよっ!」




背中でその声を受け止めても、 赤也に腹を立てている自分に振り向く気はなかった。
赤也が机からジャンプして飛び降りる気配を感じる。
待てよと言われても待つ気はない。
知らんぷりして教室を出ようとした瞬間、 背中を抱きしめられた。




「!?」




赤也の行動に驚いたのは当然だ。
そしてもうひとつ。 驚いたのは赤也が大きくて力強いと感じたこと。




______コイツって・・・・こんなんだったっけ?




去年は同じくらいの身長だったのに・・・・。
力、 こんなに強かっただろうか。
“男子”と言うよりは”男”に近いかもしれない。




「・・・・悪かった! あのときは本当に悪かった!
おまえが怒るのも無理ないよな・・・・。
だけど、 これだけは信じて欲しいんだ。
俺は、 おまえを
笑い者にしようとかバカにしようなんてこれっぽちも思ってない!」

「・・・・・・」




力づくでその手を振りほどこうと思えばできたかもしれないのに。
もがくことだって、 できたはずなのに。




「俺・・・・っ! 俺、 去年のあのとき、
おまえからチョコもらえたことが嬉しくってたまらなくてさ。
じっとしてたら叫びまくりそうになっちまって・・・・
その喜びっつうのかな? とにかく超嬉しくてさ、
そんでアイツらに思わず自慢しちまったの。
でもまさか・・・・それでおまえを傷つけちまうことになるなんて思ってもなかったんだ。
本当に悪かった。 謝って済むことじゃないだろうけどよ、 本当にすまん!」

「・・・・・・」






赤也の手に力がこもった。






「・・・・好きなんだ! おまえのことが!
だから・・・・頼むよ。 もう一度、 俺にちょうだいよ。
アンタの気持ちをさ・・・・。
チョコそのものじゃなくていい。 おまえの気持ちが欲しいよ。
もう二度とおまえのこと傷つけないって約束する!
だからマジ頼む・・・・っ!
おまえのこと、 好きすぎてどうしていいかわかんなくなりそうだよ俺」

「・・・・赤也・・・・、」




好き!? 赤也が!? 私のことを!?

驚きのあまり、 呼吸の仕方がわからなくなった。
心臓の音がばこばことうるさい。
それらが落ち着くまで待ち私はゆっくりと振り向き、 赤也の顔をのぞきこんだ。

切なそうに、 だけど、 どこかぎらつく視線と至近距離でぶつかる。
ああ、 ダメだ。
とてもじゃないけど落ち着くなんてできない。




「じゃなきゃ俺・・・・こうしてやるっ!」

「・・・・えっ!?」




赤也の腕が解かれて解放されたと思った瞬間、 その腕は私を真正面からつかまえた。
乱暴に唇を押しあてられた。

ようやく、 強引にキスされてしまったんだと理解して
「やめて!」と
赤也の胸を両手で力いっぱい押しのけるまで、 キスは止められることはなかった。
赤也は唇でも私をつかまえようとしていた。

どうにか我に返り、 赤也から逃げるように教室を飛び出しても、
赤也との突然で強引すぎるファーストキスの感触はずっと唇に残りつづけていた。

ずっと。 ずっと・・・・・・。



++END++

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