それぞれのSweet day's


【第二弾 日吉若編】
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【第二弾 日吉若編】



好きと伝えたくて




「・・・・日吉君!」

「何だ・・・・?」

「きょっ、 今日はさ、 バレンタインでしょ?
だから・・・・・・チョコ、 作ったの」






帰り際、部室にやって来たアイツは顔をトマトのように真っ赤にしながら
鞄の中からリボンで結ばれた小さな箱を引っぱり出して俺に渡して来た。

もしかして、おまえもか!?
おまえもやっぱり跡部さんにチョコを渡すためにわざわざ部室にやって来たのか!?
そう思ったが、アイツがチョコを渡すためにここにやって来たのは
跡部さんにじゃなくて、俺にで______・・・・・

今日一日、アイツは誰にチョコを渡すのかとひそかに気にはなっていた。






「あ、 もしかして日吉君・・・・甘いものはあんまり好きじゃなかった?」

「・・・・ああ。 そうだな」

「ご、 ごめんなさい! じゃあ、 迷惑・・・・だったよね?」






アイツは、まるで捨てられた子猫のような顔をした。
俺の手からチョコを抜き取ろうと手を伸ばす。
俺はチョコを持った手をアイツの頭より高い位置に持ち上げた。
本当に子猫のようだ。
自分がどんなに手を伸ばしても届かないとわかると、きょとんと目を丸くする。






「・・・・だけど、 いらないとは言ってない。
もらっておく」

「・・・・うん・・・・ありがと。 じゃあ私、 もう帰るね」






____何泣きそうな顔してるんだよ・・・・アイツ






部室を出ようとしたアイツは、跡部さんと鉢合わせになってしまった。
跡部さんは怪訝そうにアイツを見つめて、そして俺をも同じような目で見つめる。
アイツは「ごめんなさい。 失礼しました」と、
跡部さんに小さくお辞儀して走り去ってしまった。

長い髪とマフラーをなびかせて走り去るアイツの後ろ姿。
俺の手の中にあるチョコ。
それを見て、感じて、跡部さんは察したのか






「アーン? なるほど・・・・そう言うことか」

「何ですか・・・・?」

「日吉、 おまえは素直じゃない上に女心もわかっちゃいないんだな」

「・・・・・・・・」






トラックに乗りきらないほどのチョコをもらって、
横流し状態の自分は人のことが言えるのか。

跡部さんはフンと笑う。






「嬉しいなら素直に喜べ。 あの女、 泣きそうな顔して去ってったぞ?
おまえがそっけない態度なもんだから、 嫌われちまったとか思っててもおかしくないだろうな。
アーン?」

「・・・・・・」






何てお節介な人だと思いながらも、跡部さんの予感は当たっていたのかもしれない。
翌日。アイツは俺と目すら合わせなくなったのだから。

ごめん、俺が悪かった。

そのひとことが簡単に言えれば苦労しない。

チョコ自体が欲しいわけでも、食べたいわけでもなかった。
アイツの他に何人か俺の元へ来た女子共にも興味ない。

欲しかったのは、ひそかに望んでいたのは、
アイツがくれるたったひとつのチョコだった。
それを俺はきのう、もらえたのだ。
舞い上がりそうな嬉しさがこみ上げたにも関わらず、
元々の俺の性格だとかプライドが邪魔をした。

どうすればいい?なんて、柄にもなく考えてみた。
考え続けた。
時間をかけてゆっくりと考え続けた結果がこれ。
今、俺の部屋の机の上にある物だ。

瓶に入った小さなキャンディー。
手の平におさまるくらい小さな箱に入れられたハートのネックレス。
(裏にはイニシャルが入っている。)
このふたつを買うだけの苦労を思い出すと苦笑いしたくなる。






______明日だ・・・・・・!






明日、これをアイツに渡そう。
今度はきっとアイツが驚く番だ。
そして、俺がこんなことを言ったらアイツはさらに驚くだろう。






「好きだ」






一ヶ月前、アイツが俺にくれたチョコにも
同じような言葉が書かれたカードが入っていた。

だからこそ、今度は俺が素直にならなくては。



++END++

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