短 想い 心

□夢の国
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『夢の国』

 全ての事に絶望した。
 世界の全てが冷たく感じた。
 それは、自分の弱さのせいだね。

 多くの人を喪った。
 それは、誰が悪い訳でも無いのだろうと思う。
 それでも、全ての別れが、痛くて、苦しくて、新たな出逢いを受け入れるのに時間がかかった。

 それでも、愛してしまった。
 喪うかも知れないと分かっていたのに……。

 そして、それは再び繰り返された。
 理解しているつもりでいた。
 だけど、それでも、信じても良いと思えた人だった。

 「ねぇ、もし私と別れたくなったら、必ず私を殺して。それが付き合う条件」

 笑いながら、私は貴方に言った。
 貴方は笑顔で頷いた。

 「約束する。だが、こっちから別れ話を出すことは無い」
 「なら、ずっと一緒ね」

 それは、遠い記憶。
 互いを想うから離れるなんて、綺麗言並べられても、今の私には関係無い。

 今すぐに、先に逝った皆の所へ……。

 そして気付いた。
 私は今、約束がある。
 親友二人と、共に、遊びに行くと。
 だから、それが終わるまでは行けない。

 私はそれまでは生きるつもりで、精一杯頑張ると決めた。
 その甲斐もあり、学生としての成績も悪くなかった。

 家族には、何を言っても理解されない。
 家族からかけられる期待は、私をガンジガラメにした。
 身動きを取れずに、呼吸もさえも辛い日々が続いた。

 精一杯の事をしても、完成した作品をペットに壊された。
 はじめのうちは、私も怒り狂った。
 生き続けようと思ったから。

 しかし、期限を決めてしまえば、怒りもあまり湧かない。
 逆に悲しみが強くなる。
 私が怒れば、家族は私を責めるから。
 私は、家族の中で、ペットよりも小さな、無価値な存在で、世間体の為に生きているのだろうと思った。

 一人になると、気付かない内に涙が出た。
 それでも、この日までと決めたから、少し楽な気分だった。
 それはとても皮肉だと思う。


 結局、辛い想いを胸に秘めたまま、明るい調子で、変わらない笑顔で、親友と遊園地へ向かった。
 遊園地はまるで夢の国。
 楽しい、最後の一日。

 全てが計画の通りだった。
 ただひとつの誤算は、一緒に撮した最後のプリクラが、私の手元に来たこと。
 三人の橋渡しは、私だったから。

 いつも、そうだった。
 三人でいると、橋渡しは私の役目になった。
 どの組み合わせでも。
 気付けば、三人の仲良しは、私を取り合い、破局を繰り返した。

 今度だけは、そうならない。
 だって、私はもう、逝くのだから…。

 遊園地に行った次の日、私は薬を飲んだ。
 身体の弱い私は簡単に劇薬が手に入る。

 大量接種すれば、死ねる。

 そして、私は静かに眠りに落ちた。
 二度と目覚めない事を願いながら。



━━━

 彼女は、それ以降、目覚めない。
 身体が弱く、薬慣れした彼女は、死ねなかったのだ。
 代わりに、彼女は目覚めない。
 眠り姫となった。

 そして俺は彼女の大切にしていた空間を守っている。
 俺は、彼女の恋人も家族も親友も、どうでもいい。
 ただ、いつか彼女が目覚めた時、彼女は知るだろう。
 皆、器用に愛を伝えられなかっただけで、とても彼女を愛していたのだと。
 彼女は今、どんな夢を見ているのだろうか…?

 せめて夢の国では、幸福でいて欲しいと心から願う。
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