短編小説

□向日葵
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 丸い目をした少女は黒い髪を後ろでポニーテールにしていた。
 暫く二人とも呆然と見つめあった後、少女はにっこりと笑った。

「迷った?」

 少女は気さくに笑った。祐司は少女の問いかけに深く頷いた。

「そっか。誰でも初めは迷うよ。私、都潟千鶴。君は?」
「三笠…祐司」
「三笠って、三組の転校生? 東京から来た!」

 千鶴は話しながら前に歩き出した。祐司は千鶴に置いていかれないように慌ててついていった。

「うん」

 祐司は千鶴の質問に答える。ここらの小学校と言えば、祐司の通う小学校ぐらいだ。ちょうど、千鶴も祐司と同じくらいの年だろう。

「やっぱり! 私、一組。五年でしょ?」

 祐司は再び深く頷いた。
 千鶴は嬉しそうに笑った。

「こんな田舎に引っ越してくるなんて、珍しいね」
「両親が車に轢かれて死んで、おじいちゃん家に来た」

 祐司は俯いて言った。千鶴の顔から、さっと笑顔が消えた。

「ごめん」

 千鶴は静かに謝った。心遣いをしてくれているのだろうと、祐司は思った。下手に同情されるのは嫌いだが、人が死んだことを聞いてしまったことに謝れる人は好きだ。
 しばらく話は途絶えた。
 気まずかったんだ。その気まずい空気を作ってしまったことに、祐司は少し後悔した。

 やがて、喋らないうちに向日葵畑の外についてしまった。
千鶴は再び明るい笑顔で、祐司に言った。

「今度は、自分の通った道に印をつけていった方がいいよ」
「今度…来るかな」

 今回のことで、向日葵畑が怖い印象になってしまった。

「おいでよ。いつも、私はいるから」

 千鶴は優しく笑った。祐司もつられて笑顔になった。
 祐司は、このまま家に帰る。また向日葵畑に入るなど、あまり考えなくなかった。それに、太陽が真上まで来ている。もうすぐお昼の時間だ。祖母が、冷たい冷麦と麦茶を用意してくれているだろう。そして、家でとれた牛乳で作った、手作りのアイスを。
 千鶴はまた向日葵畑の中へと戻るみたいだった。二人は、手を振った。

「また、会えたらいいね」
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