短編小説
□甘いチョコレートのように
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「私達は皆、鳥かごから出られない翼を使うことを許されない鳥なんだよ」
突然の呟きに俺はビックリした。その言葉の意味にも、その声にも。哀しげな声。どこか開き直っていても、隠した哀しみが誰かに助けを求めているような。
ゆっくりと振り返った彼女は、ボーッとつっ立っていた俺に向かって微笑みかけた。
優しく、朗らかに。でも生まれたての赤ん坊を見る……無知で無力な小さな存在を見るような目をしていた。俺はその目にちょっとムカついた。
「君は誰?」
俺は彼女に問い掛けた。彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて何故か嬉しそうに笑った。
「ことは。楽器の琴と、葉っぱで琴葉。君は?」
「れい。数字のゼロで、零」
彼女が名字を言わなかったから、俺も名字は言わなかった。何も言ってこなかったから、別によかったんだろう。
「零……いい名前だね」
「……そうか?」
ニッコリと笑った彼女に、俺は肩を竦めながら聞いた。自分の名前がいいなんて思ったことなかった。むしろ数字のゼロ、零という名をつけた自分の親が理解できなかった。
「永遠の無……関わるモノ全てを同じ無に染め、影響を及ぼさない。正と負の境界」
ポツリ、ポツリと呟いた彼女の言葉に耳を傾けながら俺は感心していた。それも、そんな考え方もあるのか、という風な他人事めいた薄っぺらい感心。
「きっと君のご両親は中立的な立場に立てる人に育ってほしい、って気持ちでつけたんじゃないの?」
そう問い掛けてきた彼女笑みは無邪気で、楽しそうに輝く瞳はビー玉のようにきらきらしていた。
「……かもな。名前の由来なんて考えたことなかった。そういう君の琴葉って名前の由来は?」
何となく聞き返したその質問。すぐに、聞いたことを後悔した。
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