徒然青春記

□よん。入学式編
1ページ/8ページ

 暖かい風が春の訪れを感じさせる。桜の花びらを吹き飛ばす風は新入生たちの入学を妨げるのか、祝っているのか。
 初々しい笑みを浮かべ、楽しそうに笑う新入生。
 一方、そんな新入生を物色するように窓から眺めていた在校生の中の、いつもの五人組が新入生を見下ろしながら騒いでいた。

「あんまり可愛い子いないなー」
「初々しいじゃないですか。新入生の方々を見ていると私も歳だなって思えます……」
「圭はいつまでも可愛いわよ」
「その言葉何か怖ぇぞ」

 窓際で言い合う四人を余所に、祐一は一人机に向って黙々と紙に提案したゲームの名称とルールを書いている。彼は今新入生との交流会の内容を考えているのだ。

「葉月、ちょっとぐらいは手伝ってよ。副会長でしょ? 式辞は練習した?」

 ダルそうに欠伸をしながら葉月に向って言った祐一は、つい二か月前よりかは若干大人びた雰囲気をしている。
 高校三年生が卒業し、新しい生徒会長となった彼がそれなりの自覚を持ったからだろう。
 葉月は後ろを振り返り、小さく笑った。

「そういうのは会長が考えるものでしょう? 式辞は完璧。誰かさんよりかはマシだと思うわ」

 葉月は窓の縁にもたれながら冷たい笑みを浮かべた。少し伸びた髪が風に靡く。
 祐一は不機嫌そうに顔を顰めた。

「ああ、卒業式ん時の祐一の在校生代表の式辞。酷かったな。棒読みにも程があるよ」

 葉月の話を聞いていた真が笑いながら言った。
 その話に新入生を眺めていた圭と透も話に加わった。

「あ……あれはあれで良かったと思いますよ! ほら、もう号泣して式どころじゃなかった先輩たちもちょっと笑っていたじゃないですか」
「入学式の式辞じゃなくてよかったよな。新入生にとってはあんな棒読みが生徒会長ですかって感じじゃん?」

 必死に励まそうとしている圭の言葉は微妙に傷つく意味で、透は完璧に舐めていた。
 祐一はいつもの無表情で大きなため息をつくと静かに立ち上がり、透の前に立った。
 透よりも背が高い祐一は冷たい目で見下ろすと、ポケットに突っこんでいた手を出して透の胸倉を掴んだ。そしてすぐ後ろにあった窓の外へと押した。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ