月下紫舞

□20000hit短編
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 眠気を引き摺りながらも教室に集う生徒達。他愛ない会話が飛び交い、ごく普通の日常的情景。
 ふと窓の外を見た一人の女子生徒が、驚きに顔を染め窓に張り付いた。

「吸血鬼クラスがグランドでドッジボールしてる!」

 黄色い甲高い声を上げたその少女の言葉に、他の女子生徒が顔を上げて反応し、我先にと窓に張り付いた。

「男の子みんな出てるんじゃない?」
「相馬くんがいる!」
「見て見て俊くんもいるよ!」
「いつ見ても綺麗でカッコいい……」

 各々の好みの吸血鬼クラスの生徒を見つけては、顔をほんのり染めながらうっとりと視線を注ぐ。
 窓際に集まった女子たちを遠巻きに見るのは、疎外感と悔しさに浸る男子生徒。

「なーにが綺麗だ。さっさと寝ちまえよ」
「漫画みたいに朝日浴びて砂になれば……」
「おいおい、言うなら灰だろ。あいつら日焼けするくらいでどうってことないんだろ? なあ、灯夜(トウヤ)」

 人間という分類だけで見ればそこそこ顔のいい男子も、吸血鬼の前では確実に劣ってしまう。そんな彼らが、妬むように口を尖らせながら文句を言っていた。
 吸血鬼の性質について自信がなかった一人の男子が、窓際の席で女子たちの隙間からぼんやりと外を眺めている灯夜という男子生徒に話を振った。

「…………」
「おい灯夜聞いてんのか?」

 何も言わずただ隙間から外を眺める灯夜はまどろんだ瞳をしている。
 話を振った男子がやや刺々しい口調で言いながら灯夜の肩を掴んだ。

「なんだようるせぇな。邪魔すんなよ」

 心底鬱陶しそうに肩を掴む手を払いのけながら言った灯夜に、別に男子が苦笑した。

「早瀬奏花も来てんの?」
「ああ。観戦してる。今日も綺麗だなー……奏花さん」

 喜びに浸りながら顔を綻ばせた灯夜に、周囲の男子生徒3人は溜息をついた。友人として、ここまでデレデレしている奴とは正直他人のフリをしたいところだ。
 女子達の隙間からコソコソと眺めている彼、矢島灯夜は吸血鬼クラスの有名な仲良し3人組の紅一点、早瀬奏花にメロメロだ。

「あ、理事長……」

 隙間から眺めていた灯夜が、残念そうに小さく呟いた。
 窓から見える、楽しげにドッジボールをしている吸血鬼クラスの生徒達に理事長が慌てて駆け寄っていく姿が見えた。

「お寝んねの時間だよってか? 女子達が騒ぐから寮に帰るように言われてんだろな」
「じゃあ騒がなかったらもっと見れた……?」

 厭味ったらしく笑った友人に対し、灯夜は大きな溜息をつきながら軽く女子たちを睨む。彼女たちが騒がなければ理事長が吸血鬼クラスの生徒達に帰るように促さなかったかもしれない。




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