sincere
□かぼちゃと魔女
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「詩織ちゃん! 買い出し付き合って!」
明月と一緒にカボチャを眺めていた詩織は顔を上げ、声がした方を向いた。
皆ジャージで作業する中、制服なのですぐにわかった。
「はい! ちょっと待って下さい!」
大きなカボチャの影から顔を出して返事をした詩織は、小さく呟いた。
「制服!」
ゴミを払うように肩から膝へと手を払った詩織の服装が、学校指定の紺色のジャージから白いシャツにチェックのスカート、校章付きのネクタイに一瞬で変わった。
「いいねーその能力」
いきなり服装を変えた詩織に、明月はカボチャを抱えながら言った。
「先輩の能力も着替えはできるでしょう?」
「俺のはいちいち描かなきゃいけないから……」
スケッチブックに新しい絵を描き始めながら、明月は口を尖らせて言った。
詩織は返す言葉に困り、軽くお辞儀をするとカボチャを踏まないように気を付けながら走って行った。
「お、着替えたの?」
体育館の入り口で待ってくれていた制服姿の八神佳奈子は、詩織の姿を見て笑った。
「さすがにジャージで校外を歩くのは気が引けますので。何の買い出しですか?」
靴を履き替えた二人は、涼しい風に髪を靡かせながら校門へと向かう。
「食材の調達。明日の朝は店が開くの待ってると時間に間に合わないからね」
「何作るんですか?」
「いろいろ。基本的にはお菓子だよ。作るのは光と野崎先生、家庭科の先生だから私はよく知らないんだ。まぁ、お楽しみってことね」
紙にびっしりと書き込まれた買い物リストを佳奈子は詩織に見せた。半端ない量だが、二人にとって量は関係ないことなのだ。
「佳奈子ー明日楽しみにしてるよ!」
運動場に沿って歩いていた時、部活動中の女生徒が何名か手を振った。
「任せとけ!」
気合いの入った凛とした声で、佳奈子は返した。
詩織は何か凄いものを見る風に眼を輝かせていた。
「皆さん楽しみにしてるんですね」
「そだよー。アタシ達『能研』のイベントは超有名で超人気なんだから!」
自慢げに胸を張って言った佳奈子に、詩織は誇らしい気分になった。そんな凄いことに、自分が大いに関わっているのだから。
人口の約100人に1人の確率で不思議な能力を持つ人が生まれるこの時代、能力者と呼ばれる彼らは微妙に馴染めていなかった。
そんな彼らを受け入れる、中高一貫の私学彩星学園。
彩星学園には、通称『能研』と呼ばれる部活が存在する。能力者の生徒が所属する、正式名称『能力研究会』だ。
研究会とは名ばかりで、『能研』の主な活動内容は能力を使って学園に貢献する、生徒を楽しませる、等。
そして今彼らは毎年恒例のハロウィンパーティーの準備をしているのだ。
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