sincere

□決断と涙
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「前もって配布したプリントに大まかなスケジュールを載せてあるけど、随時連絡するのでそれに従って動くこと。指導して下さるのは警視庁、対能力者犯罪本部特別部隊第5部隊の3名の方です。隊長の篠宮七嘉さん、副隊長の神楽咲哉さん、大学生の安藤慶介さんの3名」

 ノートを手に明月が説明を始めるのと同時に、バスが動き始めた。シートベルトを着用するように小波が呼びかけ、詩織は慌ててシートベルトを締めた。
 バスの後ろに篠宮の車がついて行く形だ。

「詩織ちゃんは? 指導しないの?」

 キョトンと首を傾げた光に、詩織はパッと顔を上げた。聞かれるとは思っていた。

「えっと、私は皆さん全員の様子を見て回るのと、自分自身の練習があるため指導の方は担当してません。助言くらいなら……」
「皆一緒にやるんじゃないの?」

 詩織の発言に佳奈子が首を傾げた。どのように訓練するかは一切知らせていないため質問が飛んでくるのは当然だった。
 どうやって説明すればいいか言葉が出なかった詩織は、助けを求めるように明月の方を見た。

「個人の能力の特徴に合わせて3グループに分かれ、それぞれに指導の3人がついてくれる。振り分けは……」

 明月はノートのページを捲り、咲哉から渡された一枚のプリントと取り出した。部員の能力リストを咲哉に渡した後に返ってきた、グループ分けの表。それぞれの能力の特徴と目標を見据えて割り振られた。

「まず、佳奈子と真知と皐月が篠宮さん。光と隼人が安藤さん、俺が咲哉さんっていう感じ。これは向こうの指示だから、文句とか無しだから」

 さっそく嫌そうな顔を浮かべた隼人に、明月はぴしゃりと言った。
 詩織は唇を噛んで少しだけ俯いた。特別部隊に入りたいと言った明月に、咲哉はさっそく指導を始めていた。合宿までの数週間もずっと武術の指導などをしていた。学校の後、休日、春休み……。
 能力の訓練は合宿から始まるらしく、今は実践格闘技が中心らしい。

「10時くらいに到着予定で、午前中は詩織が敷地内を案内してくれる。昼食ととって、13時頃から早速訓練に入る予定。夜はフリーだけど……疲れて遊ぶ元気もないと思う」
「……そんなにハードなのかよ?」

 隼人が少し怯えるような表情で問いかけた。能力の特訓と聞いても、一般人にはあまり理解できないだろう。詩織はシンシアや特別部隊で受けた指導を思い出しながら苦笑いを浮かべた。

「能力は頭と精神力を酷使するからね。それが肉体の負担になっていくの。特に皆はこれから習うことが本当に初めてだから、慣れるまでは辛いと思う」
「5日間で慣れる?」
「コツを掴めば数時間で慣れます。隼人くん以外は問題ないと思います」
「えっ俺だけ無理なの?!」

 心配そうに問いかけた真知に、詩織はニッコリと笑いながら嫌味という名の事実を述べた。脳機能の発達している能力者は非能力者より賢い。その理論を見事に破っている隼人は、詩織が思うにただ不器用なだけなのだと思った。
 能力にもよるが、器用な人は能力も上手く扱える。きっと、なんでも軽くこなせる光なんかは習得が早いだろう。

「詩織の実家とはいえ、礼儀や挨拶は忘れないように。篠宮さん達も含め、迷惑をかけないように真面目に……頑張ろう」

 言葉を選んで沈黙の後に呟いた明月に、一同が苦笑した。
 部長に就任した直後よりはマシになったが、相変わらず喋るのが苦手のようだった。言葉が見つからずもどかしそうに顔を顰める明月の姿を、詩織は可愛らしく感じたりしていた。
 この合宿が誰よりも大きな意味を持つ明月は、神妙な面持ちで窓の外の景色を眺めていた。



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