短編小説

□向日葵
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 向日葵が、咲いた…
 たくさんの、向日葵が


 三笠祐司は、向日葵畑の前に立っていた。
 両親を交通事故で亡くし、北海道で農業をやっている祖父母に引き取られた。北海道のニセコ。牧場が多く、農業をやっている家が多い。
 祐司の祖父母は農業を中心としているが、酪農も小規模で行っていた。
 七月。北海道に引越ししてきて一ヶ月が経った。明るい性格から新しい小学校でもすぐに友達が出来た。まだ、両親を亡くしたことへのショックは大きかったが。
 祐司は学校の帰り、アイス作りを体験できる観光者向けの施設の敷地内にある大きな向日葵畑がいつも気になっていた。とても大きく、自分の身長より高く顔より大きな黄色い花。
 そして土曜日、ついにこの向日葵畑に入る事を決心したのだ。
 北海道の夏は前住んでいた東京に比べるととても涼しいが、日差しはきつい。首に白い手ぬぐいを巻き、肩には祖母に入れてもらった冷たい麦茶の入った水筒。麦わら帽子を被り、いざ向日葵の中に足を踏み入れた。
 向日葵畑の前にはポニーが繋がれていて、アイス作りに来た客たちがかわいいと言って記念写真を撮っていくのだ。そのポニーが、祐司に手を振るように、尻尾を左右に動かした。

 向日葵畑はいくつもの分かれ道があった。それらを適当に勘で進んで行った。
 自分より背丈の大きい向日葵に見下ろされるような感じで、項垂れた重そうな花の中央、茶色い部分は蜂の巣のようで、ちょっと気味が悪かった。
 始めの内は楽しかった。周りは向日葵だらけで黄色と緑と茶色、そして地面の肌色っぽい茶色。そして上を見上げるとぽっかりと空いたような青い空。雲ひとつない快晴の空が、見下ろしていた。
 しかし、やがてそれは祐司を不安へと追い込んだ。先の見えない恐怖。それはまだ小学五年生の祐司にはとうてい理解し得るものではなかった。
 孤独と閉塞感。何もない、何も聞こえない。
 泣いても意味がないと思っていても、祐司の心は泣かずにはいられなかった。
 泣きかけた、その時。
 茂みの向こうから、一人の少女が祐司の前に現れた。祐司は驚いて涙も止まった。少女も同じように目を大きく開き、驚いていた。
 これが、君との始めての出会いだった…。
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