sincere

□かぼちゃと魔女
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「真知先輩、リボン足りてます?」
「んー……紫と黒がちょっと足りないな」
「わかりました!」

 体育館を、段ボールを持って走っていた朝田詩織は、脚立に座って飾り付けをしていた野崎真知の前で止まった。
 詩織は真知の手元を見て、呟いた。

「紫と黒のリボン!」

 詩織が口にした言葉が、そのまま実物となって真知の手に現れた。

「ありがとう詩織ちゃん助かったよ」
「また何かあったら呼んで下さいね」

 真知はにっこりと笑うと、走り去っていく詩織を横目にリボンをフワリと宙に浮かせた。

「お待たせ隼人くん! ろうそく、これでいい?」

 広い体育館の中央で、金色のろうそく立てを磨いていた花巻隼人に詩織は持っていた段ボールを見せた。中には色とりどりの長いろうそくが入っている。

「おう、いいね。どうだ皐月、雰囲気良さそうだろ?」

 段ボールを受け取った隼人は隣で一生懸命磨いていた飛田皐月に話を振った。
 キョトンとした皐月は、やがて微笑むと嬉しそうに赤いろうそくに手を伸ばした。

「詩織……暇?」

 皐月が喜んでくれたことに安心していた詩織は、背後からボソッと話し掛けられ飛び上がって驚いた。

「飛田先輩! もうちょっと普通に話し掛けて下さいよ」

 振り返った詩織は、亡霊のようにつっ立っている飛田明月に拗ねながら言った。常に眠そうな彼は、皐月の兄だ。

「何か用事ですか? 暇といえばまあ暇なんで……何でしょう?」
「今からカボチャを大量生産するから、適当に大きさを変えて数を数えて欲しいんだ」

 スケッチブックと色鉛筆を持っている明月に、詩織は苦笑いを浮かべた。
 ずっと雑用に走り回っていたが、一番厄介な用事だった。

「わ……わかりました。スペース取りますよね。あっちの方へ行きましょう」

 自信なさそうに固まった笑みを浮かべた詩織は比較的散乱する荷物が少ない場所へ小走りで向かった。その後を明月が漂うようについていった。

「大きさは二段階でいいですか?」
「せめて三段階がいいなー……いくよ?」
「え……あっはい!」

 ぼんやりした眼差しで、壁にもたれた明月はスケッチブックのあるページを開いた。
 4種類くらいの顔つきカボチャが、綺麗に色塗りされて描かれていた。
 両手を前に出して構えた詩織を見てから、明月は描いたカボチャにそっと触れた。

「拡大!」

 ぽんっと現れた立体のカボチャに向かって詩織が叫ぶと、カボチャは全体が伸びるように大きくなった。
 ドス、と重そうな音で床に落ちたカボチャを見て、無表情な明月も思わず顔をしかめた。

「でかすぎじゃない?」
「え……そうですか?」

 詩織の横に落ちたカボチャは、直径2メートル、高さ1メートル強程の大きなカボチャだった。ここまで大きいと、刳り貫かれた目や口が怖い。

「まぁいっか。何か使い道はあるだろうから。次からはせめてコレの半分くらいで頼むよ」
「はい……」

 しょんぼりと肩を落としながらも、詩織は次から次へと生産されるカボチャを大きくしたり、小さくしたりした。
 この広い体育館に置くなら、それ相応なカボチャがいいだろうと思ったのだが。

「今いくつ?」
「17個です」
「じゃああと10個くらい作るよ」

 明月の言葉に頷いた詩織は、カボチャの顔がちょっとずつ違うことに気が付いた。絵が上手な明月らしい、と思いながらも足下に蓄まっていく大小様々なカボチャがやや気味悪く感じた。

「いくつできた?」
「30個です」
「ん、十分だね。ここに置いといたら真知が勝手にセッティングしてくれるだろう」

 自分で描いたカボチャの実物を手に取って眺めて呟き、詩織は体育館の壁をリボンやコウモリの飾りで手早くセッティングしている真知を見た。
 だんだん、それっぽくなっていく。



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