sincere

□掴んだ光と失ったモノ
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「意外と……皆いいベースをしてるな」

 ガラス張りの個室を真下に覗き込んだ水澤は小さく呟いた。3日目の午後である今、成長を見るためにもう一度基礎能力の測定のためにそれぞれが個室内で指示された通りに能力を使っていた。
 チェックシートに淡々と記録していく篠宮と慶介の邪魔にならないように、水澤は動きまわっては何度も皆の様子を観察していた。

「みんな、能力者の家系?」
「飛田家は母親が多種能力者で父親が普通の能力者です。ランクはそれぞれBとDかと。高塚光は父親が能力者で母親は非能力者。八神家は両親共に能力者、野崎家も両親共に能力者……花巻隼人は突発です」

 特別に調査した家系を詩織は述べた。飛田家に関しては何度も泊めてもらう度に両親の能力を見る機会もあったため、警察で主に使われているランク分けに当てはめることができた。基礎能力値をランクでわけたもので、その判断は非常に曖昧なためあまり正確ではないのだが、一種の指標として使われることもある。
 水澤は目を細めながらジッとそれぞれを見つめる。能力は遺伝的要素が大きく関与しているため、能力者の家系の方が基礎力は比較的高い。そして、隼人のように突発的に能力者として生まれた場合、その基礎力は比較的低い。

「母系遺伝か……確かに、明月くんより皐月ちゃんの方が基礎力は高い。隼人くんは典型的な突発型だな。光くんは遺伝的要素よりも優秀なようだ」
「ランク分けしますか?」
「いや、彼らはまだ早すぎる。伸びしろがあるから、これからが楽しみな人材だ」
「……あんまりこちら側の世界の方々じゃないですよ」

 皐月の様子をジッと見ていた水澤は、詩織の言葉に集中力が切れたようにフッと顔を上げた。彼らが一般人であることをすっかり忘れていたような様子だ。
 今はただ、大切な仲間を護るために強くなろうとしているのであって、戦いには無縁な人達なのだから。

「あー……そうだった、忘れてた。実にいい人材だからな、つい。まあ……今のランクなら、皐月ちゃんはB、光くんがC、佳奈子ちゃんと真知ちゃんがD、隼人くんがEってとこだね」
「明月先輩は?」
「……んー……際どいな。良く言えばA、悪く言えばBだな。基礎力は妹の方が高いけど、伸びしろと成長力は明月くんの方がある。潜在型というのも将来性がある。それに、一つの能力にが多様性に溢れている」

 水澤の答えを、詩織は書類の端っこにメモをしておいた。何かの参考になるかもしれない。
 水澤や咲哉のような国定能力者の場合、ランク分けに当てはめるとSが3つ並ぶ。それが最高位であり、それ以上はなく、同じSSSに分類される。特別部隊にはSランク以上が多いのが特徴だった。
 面白そうに笑みを浮かべながら観察を続ける水澤の視界を、慶介が一瞬だけ横切った。

「慶介、お前はAランクだぞ」
「……はいい! わかってます。わかってますってば」
「透視を使った接近戦をもうちょっとなんとかしろよ。今のままじゃ間合いを詰めたら一発だ」
「はい……すんません。鍛えます」

 厳しい指摘に凹みながらも、慶介の目は部員達から外れることはなかった。今の仕事は、部員達の指導なのだから。
 たとえ協力関係にある詩織や慶介でも、ランク分けは適応される。そして特別部隊には少ないAランクである慶介は、水澤の恰好の的なのだ。気の毒にと思うが、あくまで後方支援向きの彼の能力で接近戦をなんとかしろというのは、やや無茶ぶりだった。

「もし、この合宿に参加している全員でシンシアと乱闘になった場合、一番いいポジションが思い浮かんだよ。なかなかバランスがいい」
「皐月ちゃんと慶介さんがセンターですか?」
「そうそう。篠宮さんがセンターの守りで、詩織と咲哉、光くんと佳奈子ちゃんは前線タイプだ。隼人くんと真知ちゃん、明月くんは中距離だな」
「……参考にします」

 詩織が考えていたのとおおよそ合っていたが、佳奈子が前線であることと、明月が中距離であることが違っていた。明月は接近戦も鍛えているため、前線にも対応できる。むしろ佳奈子や光が前線に出る方が逆に危ないのでは、と思っていた。
 ふと皐月の様子を見た詩織は、眼を細めた。人形のように無表情な彼女の顔が、僅かに顰められていた。

「篠宮さん、皐月ちゃん……持久力ですか」
「ああ。能力値は相変わらず優秀だが、能力の発動を持続させることができない。その所為か同時併用も難しそうだな」
「透視と片方向テレパシーは併用できてましたよね?」
「ああ。その二つは基礎力が低い。一番高い炎が問題だな。炎を操っている間に透視はできない。片方向テレパシーは辛うじてできる。3つ全部は無理だな。やろうとすると炎が消える」
「集中力と精神力の問題でしょうね。能力値の高い炎を扱いきれてないんでしょうね」

 詩織の頭の中に、兄の言葉が過ぎった。皐月の能力は、暴発が危険だと。無理に併用しようとしたりすると、コントロールを失って暴発し兼ねない。その点、明月の能力コントロールは長けている。発現したばかりの空気の能力でさえ、既に自在に操れているのだから。
 とことん的確な織葉の指摘は、逆に不愉快だった。

「訓練の成果は出てますか?」
「まあ、一応な。双方向テレパシーのコツは掴んだらしく、伝わる確率が上がってはきている。炎の威力も格段に上がっているし、コントロールも良くなった。透視範囲も広くなった。が、併用だ」
「まだ難しいでしょうね……」
「野崎真知の重力切り替えはスピードアップした。荷重も強くなったし、無重力空間範囲も少し広がった。八神佳奈子の状態変化にはまだ引っかかりがあるが、冷気は冷たさを増したし、凍結速度も上がった。氷の造形も良くなったかな」

 篠宮の説明に頷きながら、それぞれの様子を見て行く。少しでも強化できているなら、この合宿を行って良かったと思える。それぞれの努力の結果だ。
 詩織は軽くメモを取ると、振り返って慶介の方を向いた。




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