徒然青春記

□よん。入学式編
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 本鈴が鳴る間際に、祐一だけが三人がいた教室に帰って来た。
 三年生のクラス分けは祐一と圭がA組、真がC組、葉月と透がF組という組み合わせになった。喜ぶ者も、悲しむ者も、それぞれだった。
 三人がいた教室はA組だったが、本鈴間際だったためすでに真と透は自分のクラスに帰っていた。
 教室にはぼんやりと外を眺める圭の姿だけがあった。

「何見てんの?」

 圭の隣に近づいた祐一はボーっとしていた圭の顔を覗き込んだ。
 圭は眼を丸くして驚いた後、元気のなさそうな笑顔を浮かべた。

「おかえりなさい、祐一くん。葉月ちゃんはもう講堂でしょう? お仕事は終わりましたか?」
「葉月は最後のリハーサル中。仕事は終わったよ」
「そうですか。大変ですね、生徒会は……。祐一くんが生徒会で忙しいと、私一人ですね。クラス別々になちゃって……」

 圭は今にも泣き出しそうな顔で俯いた。
 祐一は無表情でそんな圭を見ていたが、やがて小さくため息をついた。

「逆に俺たちとちょっと距離をとったほうがいいかもね。いつも目立つ俺らと一緒にいたせいで周りのやつらが圭に近づき難かっただろうし……」
「そんなことない!! 距離をとるなんて、言わないでください……」
「いつまでも一緒なんて無理なんだよ。少なくとも、君が透に思いを寄せる時点でね」
「……!!」

 祐一の言葉に圭は眼を大きく見開いて驚いた。そんな圭を祐一はただ冷たい眼差しで見つめる。

「知っていたの……」
「随分前から。葉月も知ってる。ちなみに誰が誰を好きかまで知ってるよ一応。聞きたい?」

 祐一は口元に小さく笑みを浮かべたが、唇を噛み締めた圭は大きく首を横に振った。
 知って、傷つくことを恐れて。

「俺と葉月は傍観者なんだよ。何もかもを知り尽くした上で、ただ見ている」
「……お二人には、今の関係がどうなるか見えているんですね?」
「……まあね。だからといって圭の思いの邪魔をするつもりはないから。この関係が崩れようと、俺らはあくまで傍観者だからね」

 冷たい言葉に不敵な笑みを浮かべた祐一はもたれていた壁からゆっくりと離れた。
 ちょうどチャイムが鳴り響いて生徒達が着席し始めた。
 自分の席に戻ろうとする祐一を、圭は呼びとめた。
 振り返った祐一が見たのは、今までで一番悲しみに染まった圭の表情だった。それは、憐れみも含んでいるように見えた。

「悲しく、ないんですか? 苦しくないんですか?」

 悲しみに震えた圭の声。泣きそうに湿った瞳で真っ直ぐと祐一を見据えている。
 祐一はそんな圭を見て、優しく微笑んだ。いつも無表情で、滅多に笑わない彼は、冷たさの中にある温かさのような、一瞬だけ浮かべた微笑み。

「そんな感情は、捨てたんだよ……」

 その言葉と微笑みの一瞬だけが、時が止まり違う世界に隔離されたように感じられた。
 圭は唖然として立ち尽くしていたが、入ってきた教師に注意され、慌てて席に着いた。
 祐一の浮かべた笑みを言葉の意味に頭を抱えながら。





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