ブリーチ小説

□芽生えたのは、恋という名の願いでした
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芽生えたのは、恋という名の願いでした





「朽木さ、最近、いいことあったでしょ?」


デスクに向かう昼前のこと。パソコンを打つ手が、止まる。ルキアは返事すらできずに、覗き込む美貌の持ち主を見上げる。
長い金色の髪を、程よく肩に流し、後ろで綺麗に纏める彼女のセンスは、社内の女子たちの憧れの的だ。もちろん、ルキアもその一人だ。整った美貌を鼻に掛けることもなく、だれにでも気安い彼女を嫌うものなど、誰一人として存在しない。
ただ一つ、困ったことがあるとすれば、一対一で対面すると、相手が極度の緊張状態に陥ってしまうことだ。
現に、ルキアも、パソコンを打つ手のまま、固まっている。


「おーい、大丈夫?」


ひらひらと目の前で手を振られ、ようやく、瞬きをする。


「は、はい。えっと、何でしょうか、松本先輩」


ようやく答えることできたルキアに、彼女は、にっこりと微笑む。


「ズバリ!彼氏が出来たんでしょ!」


「はい?」


わけがわからず、首をかしげれば、盛大な溜息が返ってくる。そして、腕を組み、唸りはじめる。


「あら、違うんだ。でも、ぜっったい、当たってると思ったのになぁ」


ふと、周りを見やれば、ちらちらと同僚たちが見てるのは、気のせいだろうか。この場合、注目を浴びているのは、先輩の松本に他ならないのだが、内容が内容だけに、皆耳をそばだててしまうのは、仕方がないと思う。


「あ、わかった!"恋"ね」


ルキアは目を瞬かせる。
彼女は、何と言ったのか。頭をフル回転させる。

恋。そう言ったのだ。
誰、が?


不意に、浮かんだのは、いつも見かける、あの人。

瞬間、ルキアの顔に朱がのぼる。


「あ、図星ね。ね、誰?もしかして、この中にいるの?あら、じゃあ、社内恋愛!いいわね〜」


先程、預けた書類を手にし、颯爽と去っていく。
ルキアは、何も言えず、ただただ、彼女のピンと伸びた背を見送る。
残されたのは、痛いほどの視線と、微妙に気まずい空気。
定時まで、まだまだ、時間は残されている。いや、まず問題なのは、この後の昼休みか。
ルキアは、憂鬱な溜息を一つこぼし、パソコンに向き直る。
絶対に、質問攻めに遭うだろうことを予想し、頭痛がするのを感じた。













夕日が地平線に近づき、空を朱く染める。
電車を待つ多くの久々は、思い思いに時間をつぶす。携帯を握りしめていたり、あるいは、新聞を片手に。はたまた、談笑したりと。そんな中で、ルキアは立ちつくしていた。
脳裏をよぎるのは、昼間に聞いた言葉だ。

"恋"

本当に、そうなのだろうか。ルキアには、わからない。だって、一度も話したこともない人なのに。彼は、自分のことを知らない。

そう、知らない、のだ。

途端に胸がツキン、と痛む。
一度だけ見た笑顔が、不意に浮かんで、泣きたくなった。

いつの間にか、電車は到着していた。

でも。

ルキアは、もう、いつものあの場所に、足をむけることが出来なくて。乗り込んだ最後尾の車両から、窓の外、夕日に染まる街並みを、見つめ続けた。





END


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
恋を知る。

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