ブリーチ小説

□背中越しの貴方
1ページ/1ページ


背中越しの貴方



会社へと向かう朝の電車で、彼を見かけるようになったのは、いつからだろう。





ルキアが勤める会社は、自宅から離れた場所にある。車を持ってはいたが、街の中心部に位置する為、車での通勤は認められていない。その為、必然的に使用される通勤手段は、公共のものと限定される。
朝の通勤ラッシュと、自転車の疲労、どちらを選ぶかの話になれば、それは、賛否両論。どちらにも、利点と欠点が持ち上がり、結局、選ぶのは、本人次第となる。
ルキアが選んだのは、前者であるが、それなりに、満足をしている。会社が自宅と離れているため、割と空いた時間に電車に乗るからだろうか。それほど、酷いラッシュに見舞われることは、あまりない。




駅のプラットホームに立ち、電車を待つ。
腕時計に目をやれば、もうそろそろ、到着時間だ。
細いリング状のチェーンがつらなるこの腕時計は、入社祝いに、姉が買ってくれたものだ。
プレゼントの箱を開けた瞬間、一目で気に入った。ルキアのお気に入りのものだ。

遮断機の音が、聞こえて始め、しばらくすると電車が見え始める。
線路を響かせ、車両がゆっくりと止まる。
扉が開き、中に入ると、太陽に背中を向け、座る。
鞄から取り出した、読みかけの小説から栞を抜くと、ルキアは静かに読み始めた。




二駅目に着いたときだった。
扉が開き、人が動き始める。中々動かない電車に、顔を上げれば、不思議な髪色とぶつかった。

(オレンジ色、か?)

扉の手前に立つ男性。糊のきいたスーツに身を包み、先程から、外に向かって何やら話している。
ピンと伸びた背筋。どう見ても、真面目そうな青年だ。

(あんなに、真面目そうなのに、何故、オレンジ色の髪なんだ?)

ルキアが見つめていると、不意に、その男性が屈んだ。
そして、入ってきたのは、車椅子の女性だった。
男性は、駅員の人たちと一緒に、車椅子の彼女の為、スロープを用意していたのだ。
笑顔で礼を言う彼女の笑顔は、とても綺麗だった。
彼は、軽く頭を下げると、何事もなかったように、電車の奥へと向かう。

ルキアは、彼から、目が離せなかった。

彼女にむけ、一瞬見せた笑顔が、胸から離れなくて、ルキアは彼の後ろ姿を見つめ続けた。












電車が目の前に、止まる。中に入って、先頭の車両へと続く手前の席に座る。
あれから、何度か彼を見かけた。彼は、いつも同じ場所から、電車に乗る。
ルキアが座る反対側の扉からだ。
二駅目に着いて、扉が開く。
見えたのは、あの時の彼だ。


とくん、と胸の奥が鳴る。


朝の電車の中、視線の先には、彼がいる。

ルキアは、そっと、胸を押さえた。

鼓動が鳴り響く。


今日も、一日が始まる。

ルキアはそっと、彼の背中を見つめた。



END


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
恋を自覚する一歩手前。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ