ブリーチ小説

□諦めないで、その想いを
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諦めないで、その想いを




十三番隊、隊首室"雨乾堂"では、隊長である浮竹十四郎が頭を悩ませていた。

先日から続いていた熱がようやく下がり、起き上がれるようになったといっても、腹心の部下に布団の中へと押し戻された。

確かに、彼女の言うことは、もっともだ。
病み上がりなのだから、無理をせず、休んでおくべきだ。
だが、今は、それよりも、大切なことがあるのだ。


「清音、俺はもう、大丈夫だから。今日は、気分もいいし」


「駄目です!駄目駄目!絶対に、駄目です!この前だって、倒れたじゃないですか!寝てなきゃ駄目です」


十三番隊第三席、虎徹清音が、拳を握りしめ、力説する。彼女は、己が信頼する大切な部下だが、如何せん、心配性な気がする。


「だかな、清音。あまり寝てばかりいたら、仕事が滞るだろ?」


やんわりと言い含めようとしても、返ってくるのは、頼もしい限りの返事だ。


「大丈夫です!隊長!隊長のためなら、火の中水の中、何だってやってみせます!ですから、安心して、休んで下さい!」


浮竹は、肩を落とした。
これでは、埒が明かない。ここは、はっきり言うしかないだろう。
浮竹は、必死に力説する部下に向き直る。


「なあ、清音。最近の朽木の様子、どう思う?」


「え・・・・?朽木さん、ですか」


突然話が変わり、清音は、一瞬動きを止める。
それから、うんと唸り始める。


「そう、ですね。この頃、ようやく笑顔を見せてくれるようになったのに、なんだか、元気がないみたいです。無理してるみたいで」

ああ、彼女もあの子を心配している一人なのだ。
浮竹は、静かに微笑んだ。

「たしか、一護君でしたっけ。彼らが、帰ってから、朽木さん、すごく寂しそうで。そりゃそうですよね。好きな人と、離ればなれになっちゃうんですから」


清音の言葉に、浮竹は目を丸くする。


「何だ、清音も、気づいてたのか」


「何だって。隊長、あの二人見てたら、子供だって分かりますよ〜」


笑顔で答える清音を、浮竹は苦笑いして見つめる。
どうやら、己が考えているよりも、スムーズに進むかもしれない。彼女が言う事が正しいなら、ほかにも味方はいるはずだ。


「すまないが、清音、耳をかしてくれ」


隣に呼んだ清音に、そっと、耳打ちする。
顔を真っ赤に染めていた彼女の顔に、笑顔が浮かぶ。

「隊長!私、朽木さん、呼んで来ます!」


走り去った清音の後ろ姿を見つめ、浮竹はようやく息を吐く。
彼女に任せれば、大丈夫だろう。
枕元に置かれていた湯呑に口をつけ、そっと微笑んだ。











「現世任務の、新人たちの引率ですか?」


突然、呼び出されたルキアは、困惑しながら、隊首である浮竹を見つめる。


「何も、難しいことじゃない。まだ慣れていない新入隊員のサポートをしてほしいんだ。清音も行くから、安心するといい」


清音は、任せて!と元気よく返事をするが、ルキアの顔色は冴えない。


「どうした、朽木。何か、心配なことでもあるのか?」

「あの、何故、私が選ばれたのですか?」


浮竹と清音は、顔を見合せた。
そして、同時に頷く。


「朽木さん、私たちより、現世のこと、詳しいでしょ?」


途端に、ルキアの顔が曇る。

「責めてるんじゃないのよ。朽木さんは、現世の人たちから直接、いろんなことを聞いてると思うから、新入隊員の子たちに、色々と教えてあげてほしいって、隊長が思ってるの」











風が、吹く。

開け放った障子から見える庭園に、ふと、心が癒される。
浮竹は、ゆっくりと布団から身体を起こした。

もうそろそろ、現世へ到着したころだろうか。
最後まで迷っていた彼女だったが、真面目な性格ゆえ、最後には頷いてくれた。

余計なことをした気もするが、こうでもしなければ、きっと、彼女は心に抱く想いを押し殺してしまうだろう。それが、どれほど辛い、ことか。
浮竹は、つめていた息を吐いた。

太陽と同じ輝きを持つ少年は、長年苦しみ続けていた彼女の心を解き放った。
彼女の心の傷は、生涯、消えることはなくとも、もう、一人で苦しんでほしくない。

彼女に、幸せが訪れるように。

今は、ただ、この場所から祈る。





END
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