ブリーチ小説
□その想いを知るのは
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その想いを知るのは
十三番隊の一室。
机の上には、山積みにされた書類が、いくつも並んでいる。
そんな中、書類に没頭していたルキアは、顔を上げ、背伸びをし、疲れた身体を解す。
「ああ、もう夕暮れ、か・・・・」
窓の外を見れば、夕日が顔を覗かせている。
立ち上がり、窓を開ける。
ひんやりとした空気が、肌に触れ、心地よく染み渡る。
「そろそろ、帰らなければ、兄様が心配なさるな・・・」
しん、と静まり返った部屋が、寂しさを増す。
ルキアは目をふせ、溜息をついた。
(淋しい、など。死神ともあろう者が、情けない。これでは、朽木家の人間として、失格だな・・・)
そうやって、自分を戒めても、胸の疼きは、止まない。
こんな風に、想い、悩むのは、彼に出会ってしまったからだ。
オレンジ色をした髪が、よぎる。
ルキアは目を開けた。
その瞳が潤む。
逢いたい。彼の声が、聞きたい。
「一護・・・・」
「呼んだか?」
慌てて振り返えれば、馴染みの顔とぶつかった。
「な、貴様、恋次!!何をしておるのだ!」
「あ?何、かりかりしてんだよ。冗談なんだからよ、軽く返せよ」
めんどくさい、と言わんばかりの恋次の態度に、ルキアは本気で、切り掛かってしまおうかと思ったが、幼なじみのよしみで取り敢えず、手を止める。しかし、手は掛けたままだ。
それに気付いた恋次が、慌てだす。
「待て待て!こんなところで、刀抜く気か!?」
「貴様が、次、冗談などぬかせばな」
はぁ、と大きな溜息をついた恋次は、がしがしと頭をかくと、ルキアに向き直った。
「悪かった。冗談が過ぎた。朽木隊長から、頼まれたんだよ。お前が、帰って来ないから、見に行けって」
「兄様が?」
「ああ。それより、仕事、終わったのか?」
「あ・・・ああ。すまない。今、切りのいい所で、終わらせようと、思っていたところだ。兄様には、すぐに帰ると、伝えてくれ」
あの反乱の後、初めて聞いた、義兄の想い。
それは、ルキアの心にあった氷解を溶かすには、十分なもので。
ほら、今だって。
心が、じんわりと、あたたかくなる。
「すまない、恋次。ありがとう」
素直に口にすれば、恋次は驚いたように、ルキアを凝視する。
しかし、すぐに、いつもの見慣れた笑みを浮かべる。
「じゃあな。ちゃんと、伝えたからな」
霊圧が動かないことを不審に思ったルキアが、視線を向ければ、恋次は扉の前で立ち尽くしていた。
「恋次?」
「なぁ、ルキア」
「何だ?」
「お前、は・・・。一護のこと、好き・・・なん、だろ」
躊躇いがちに紡がれた言葉に、ルキアは息を飲んだ。
しかし、直ぐに、取り繕う。
「な、何を、言っておるのだ」
軽く笑って、恋次の側を通り抜けようとした時。
強く、右腕を掴まれた。
「俺は、あの時、お前の手を離した事、本当に後悔した。だから、もし、一護の事を本当に想ってんなら、何があっても、ぜったい離すな」
〜
恋次が通りすぎた後も、ルキアは動けなかった。
恋次が、握りしめていた、腕が、熱い。
その熱が、心を強く、揺さ振る。
「離すな。だと・・・・」
零れ落ちた言葉に呼応するかのように、涙が零れ落ちる。
それは、とめどなく、後から後から、溢れ出していく。
どうして、願えるというのか。
彼は、人間。己は、死神。
相容れることのない者たちが、結ばれるはずなど、ないではないか。
「たわけ・・・だな、私は・・・・」
この想いは、認めては、ならないものだから。
深く、深く。
胸の奥に、押し込める。
窓から差し込む夕日は、愛しい人と同じ、温かくて。いとおしさが、胸を覆う。
愛しい、と心が叫びだす。
「たわけだ・・・・」
神がいるならば、何故、彼と出会う運命を、己に与えたのだろうか。
嗚咽が零れ、ルキアは崩れ落ちた。
泣き続けるルキアを、夕日の光が、優しく包み込んでいた。
END