ブリーチ小説
□雨上がりの夏の気配
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雨上がりの夏の気配
梅雨が終わり、本格的に夏を迎えようとしていた。
久しぶりに休暇の取れた恋次は、となりに座る幼なじみの少女の機嫌が今までにないほど、悪い事に驚いた。
少し前までは、あれほど機嫌がよかったのに。
(あいつの、せい、だろうな・・・)
思い浮かぶのは、太陽と同じオレンジ色の髪をした少年だ。
「何か、あったのか?ルキア」
誰と、とは言わない。言ってしまえば、ルキアの機嫌はますます急降下するであろう事は、恋次には手に取る様に分かる。
「べつに、何もない・・・」
ふい、と顔を背けるルキアを、恋次はやれやれと見つめる。
これは、そうとう機嫌が悪い。そう悟った恋次は、それ以上何も言わず、ただ、目の前を流れる川を見つめる。
ルキアも何も言わず、二人して川原の土手に座り込み、流れの先を見つめる。
恋次の口から、はぁっと溜息が出た。
気付いたルキアが顔を上げ、恋次の顔を覗きこむ。
「何だ、恋次、悩みでもあるのか?」
出てきた言葉に恋次は、目を丸くする。
「何だ?違うのか?」
怪訝そうに見つめてくるルキアに、恋次は慌てて「何でもない!」と、答えた。
(悩んでんのは、俺じゃなくて、お前のほうだろ!)
何で、こんなにも鈍い、のか。再び、深い溜息をつく。
「やはり・・」
「何でもない、大丈夫だ!」
ふと、馴染みのある霊圧を感じる。
隣をみれば、どうやら、彼女も気付いたようだ。頬が紅潮している。
(よーやく来たか・・・。まったく)
走ってこちらに向かってくるオレンジ頭に、恋次は大声で名を呼ぶ。
「おーい、一護!!」
すでに、気付いているだろうが、恨みも込めて怒鳴る。
いや、これは、単なる八つ当たりなのかもしれないが、そんなことは、どうでもいい。
(大切なんだろ?だったら、こんなに淋しそうな顔、させんじゃねぇ、馬鹿が)
ちらりと、ルキアを見つめる。もう、先ほどまでの陰りが見えず、恋次はほっとする。
出てきそうな、罵詈雑言を何とか飲み込み、やって来る一護を迎える。
「遅ぇーよ、馬鹿野郎が」
はあはあと、息を切らしている一護に、恋次が声を掛ける。べつに、恋次が待たされたわけではないが、
何も言わない幼なじみのかわりに言ってやる。
「悪ぃ、恋次。でも、サンキューな」
それが分かっているのか、一護も何も言わない。
流れくる汗を腕で拭い、一護が呼吸を整え、ルキアに向き直る。
どれほど急いで来たのか、恋次にも分かる。
きっと、ルキアにも分かっているのだろうが。ただ、素直になれないのだろう。
そういう所は、昔から、まったく、変わらない。
「悪い、ルキア、約束破って。遊子が出かける前に、熱、出して。それで、くるのが、遅れた。本当、ごめん」
頭を下げた一護に、ルキアが慌てる。
「べ、別に、怒ってなどいないぞ。それより、良いのか?一護は」
「何で?」
顔を上げた一護と目があうと、ルキアはふい、と視線を外す。
それが、彼女らしくて、恋次が微かに笑うと、鋭い視線が返ってきた。
(まったく、変わんねーな)
本気で分からないという一護に、ルキアがおずおずと口を開く。
「心配なのだろう?妹の傍についていなくて、よいのか?」
途端に、一護は満面の笑みに変わる。
「ばーか、変な心配してんじゃねーよ。親父がついててくれるから、大丈夫だ。それより、逢いたかった」
ルキアの頬が、瞬く間に、赤く染まる。
そして、控えめな笑顔が浮かぶ。
嬉しいと、溢れ出す感情が、側で見ている恋次にも、よく分かる。
(まったく、やれやれ、だぜ・・・・)
二人に気付かれぬよう、そっと、その場を後にした。
〜〜
せっかくの非番だったのに、まったくついてないと、恋次はひとりごちる。
しかし、その顔はまんざらでもない様子だ。
未だ、胸の疼きは、止まない。
きっと、これからも、消えることは、ないだろう。
胸にある、幼い頃から抱き続けている、この想いを口にすることは、決して、ない。
彼女は、ようやく、心からの笑顔を取り戻した。
それを成しえたのは、誰でもない、あの少年唯一人だ。
もう、あの笑顔を消すことなど、自分にはできない。
だから、願う。
彼女が、幸せでありますように、と。
ただ、そう、祈り続ける。
END
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
恋次さんの、ルキアさんに対する想い。
彼は、きっと、こんな風に二人のことを見守るのではないかと思います。
何だか、妹を見守るお兄ちゃん、てな感じになりました。
恋次さんは、本当に、いい奴だと思います。