ブリーチ小説

□秘密
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秘密


それは、誰も知らない自分だけの秘密。







「次、誰が占う?」



夏休みが過ぎ、秋が近づいている中、まだまだ暑さの残る日々が続いている。そんな朝早くの教室の片隅の光景に、黒崎一護は扉に手を掛けたまま、固まっていた。

「あ、一護おはよー。遅かったね」

クラスメイトの小島水色に声を掛けられるが、一護の反応はいつもより鈍い。

「え、あ、おう」

歯切れの悪さに水色は気にすることもなく、いつもの笑顔で一護の隣に立つ。

一護の視線の先にいるのは、彼の幼なじみの有沢たつきだ。彼女を中心として、クラスの女子が円になって囲んでいる。全員が真剣になったかと思うと、次には、歓声が起こる。そこは、一種の奇妙な空間が出来上がっていた。

「何、やってんだ?あれ」 

眉間に皺を寄せた一護が、問いかけた。

「ああ、あれ?タロット占いだよ」

水色は何でもないように答えた。が、一護にとっては理解し難いものでしかない。

「タロット占い?」

「あれ?一護、知らない?ほら、今井上さんがトランプみたいなの、持ってるでしょ。あれが、タロットカード。あれを使って、占うんだよ」

よくみれば、確かに、トランプの様なものがある。だからといって、何であんなもので、盛り上がれるのかくだらないと、一護は思う。

「そんなもん、当たる訳ねぇだろ」

ガリガリと頭をかき、歩き始める。

「一護は、信じてないんだね」

後ろからついて来ている水色に、「あたりまえだろ」と返す。

「あんなの、ただの子供騙しだろ?」

「子供騙しって、どういう意味よ?」

不意に聞こえてきた声に、一護は顔をしかめた。

「何だよ、たつき」

振り返り立っていたのは、思った通り、たつきだった。仁王立ちした姿は、その辺の男よりも迫力がある。しかし、一護は気にせず睨み返す。

「くだらねぇもんを、ぐたらねぇって言って、何が悪いんだよ」

一護はいつもより眉間に皺を寄せ、たつきを睨む。

ひっ、と息を飲む声が聞こえた。

まあまあ、と水色が隣で宥めているが、一向に緩む気配はない。

「ふーん、なるほどね。あんた、恐いんでしょ?秘密、知られるのが」

「あ?んなわけねーだろ」

半分、呆れたように一護が言う。

「じゃ、やってみせてよ」

たつきの言い草に、カチンときた一護は、反射的に答えていた。

「じゃあ、やってやろーじゃねぇか」

その側で、水色が「あーあ」と呟いていたが、今の一護には聞こえていない。

たつきが持っていたタロットを引ったくると、どかりと椅子に座る。

はらはらとした様子で見守っていた井上織姫が、一護にやり方を説明しはじめる。

「えっと、このタロットを自分が良し、て思えるまできってね」

一護の前に座ることになった織姫の頬が、紅く染まっているのに、一護は気付かない。

「こんなもんか?で、次は?」

織姫の指示通り、タロットを何度かきり、机の上に並べ始める。


「並べ終わったら、一度手を合わせて、願うの」

甚だ、怪しい。そんなもので、本当に秘密が分かるものなのか。
一護は首を傾げながらも、言われた通りに手をあわせ、目を閉じる。

「これで、いいのか?」

「うん!じゃあ、黒崎君、順番に捲っていってね」

いつの間にか、一護の周りは興味津々のギャラリーに囲まれていた。もちろん、水色もその一人で、にこにこと事の成り行きを見つめている。

順番にタロットを捲る。最後の一つを捲ったとき、側にいた、たつきが息を飲んだのがわかった。

「なんだよ?」

訳がわからなくて、一護が問いかけると、呆然とした声が返ってきた。

「一護、あんた、好きな人、いるの?」

その瞬間、一護の頬に朱が差した。

「うそ・・・」

たつきが信じれない、と言うように呟く。

「そ、そんな訳ねーだろ!!」

慌てて立ち上がった一護は、扉に向かって歩き出す。

同時に前の戸があき、担任が入ってくる。

「こら、黒崎。どこいくんだー。ホームルーム、始まるぞー」

後ろで担任の声が聞こえたが、一護は振り返らず走りだした。







胸の鼓動が止まない。

堪らなくなって、一護は立ち止まった。

あの時、たつきに言われた瞬間、脳裏に浮かんだのはたった一人。ルキアだった。

もう、誤魔化すことは、出来ない。どうしようもない想いが、溢れ出す。

「ちくしょ・・・」


ルキアが、好きだ。


「ちくしょ・・・」


呟いた言葉は、苦みをはらんでいた。





END
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