ブリーチ小説
□秘密
1ページ/2ページ
秘密
それは、誰も知らない自分だけの秘密。
「次、誰が占う?」
夏休みが過ぎ、秋が近づいている中、まだまだ暑さの残る日々が続いている。そんな朝早くの教室の片隅の光景に、黒崎一護は扉に手を掛けたまま、固まっていた。
「あ、一護おはよー。遅かったね」
クラスメイトの小島水色に声を掛けられるが、一護の反応はいつもより鈍い。
「え、あ、おう」
歯切れの悪さに水色は気にすることもなく、いつもの笑顔で一護の隣に立つ。
一護の視線の先にいるのは、彼の幼なじみの有沢たつきだ。彼女を中心として、クラスの女子が円になって囲んでいる。全員が真剣になったかと思うと、次には、歓声が起こる。そこは、一種の奇妙な空間が出来上がっていた。
「何、やってんだ?あれ」
眉間に皺を寄せた一護が、問いかけた。
「ああ、あれ?タロット占いだよ」
水色は何でもないように答えた。が、一護にとっては理解し難いものでしかない。
「タロット占い?」
「あれ?一護、知らない?ほら、今井上さんがトランプみたいなの、持ってるでしょ。あれが、タロットカード。あれを使って、占うんだよ」
よくみれば、確かに、トランプの様なものがある。だからといって、何であんなもので、盛り上がれるのかくだらないと、一護は思う。
「そんなもん、当たる訳ねぇだろ」
ガリガリと頭をかき、歩き始める。
「一護は、信じてないんだね」
後ろからついて来ている水色に、「あたりまえだろ」と返す。
「あんなの、ただの子供騙しだろ?」
「子供騙しって、どういう意味よ?」
不意に聞こえてきた声に、一護は顔をしかめた。
「何だよ、たつき」
振り返り立っていたのは、思った通り、たつきだった。仁王立ちした姿は、その辺の男よりも迫力がある。しかし、一護は気にせず睨み返す。
「くだらねぇもんを、ぐたらねぇって言って、何が悪いんだよ」
一護はいつもより眉間に皺を寄せ、たつきを睨む。
ひっ、と息を飲む声が聞こえた。
まあまあ、と水色が隣で宥めているが、一向に緩む気配はない。
「ふーん、なるほどね。あんた、恐いんでしょ?秘密、知られるのが」
「あ?んなわけねーだろ」
半分、呆れたように一護が言う。
「じゃ、やってみせてよ」
たつきの言い草に、カチンときた一護は、反射的に答えていた。
「じゃあ、やってやろーじゃねぇか」
その側で、水色が「あーあ」と呟いていたが、今の一護には聞こえていない。
たつきが持っていたタロットを引ったくると、どかりと椅子に座る。
はらはらとした様子で見守っていた井上織姫が、一護にやり方を説明しはじめる。
「えっと、このタロットを自分が良し、て思えるまできってね」
一護の前に座ることになった織姫の頬が、紅く染まっているのに、一護は気付かない。
「こんなもんか?で、次は?」
織姫の指示通り、タロットを何度かきり、机の上に並べ始める。
「並べ終わったら、一度手を合わせて、願うの」
甚だ、怪しい。そんなもので、本当に秘密が分かるものなのか。
一護は首を傾げながらも、言われた通りに手をあわせ、目を閉じる。
「これで、いいのか?」
「うん!じゃあ、黒崎君、順番に捲っていってね」
いつの間にか、一護の周りは興味津々のギャラリーに囲まれていた。もちろん、水色もその一人で、にこにこと事の成り行きを見つめている。
順番にタロットを捲る。最後の一つを捲ったとき、側にいた、たつきが息を飲んだのがわかった。
「なんだよ?」
訳がわからなくて、一護が問いかけると、呆然とした声が返ってきた。
「一護、あんた、好きな人、いるの?」
その瞬間、一護の頬に朱が差した。
「うそ・・・」
たつきが信じれない、と言うように呟く。
「そ、そんな訳ねーだろ!!」
慌てて立ち上がった一護は、扉に向かって歩き出す。
同時に前の戸があき、担任が入ってくる。
「こら、黒崎。どこいくんだー。ホームルーム、始まるぞー」
後ろで担任の声が聞こえたが、一護は振り返らず走りだした。
〜
胸の鼓動が止まない。
堪らなくなって、一護は立ち止まった。
あの時、たつきに言われた瞬間、脳裏に浮かんだのはたった一人。ルキアだった。
もう、誤魔化すことは、出来ない。どうしようもない想いが、溢れ出す。
「ちくしょ・・・」
ルキアが、好きだ。
「ちくしょ・・・」
呟いた言葉は、苦みをはらんでいた。
END