封神小説

□愛の証
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愛の証


別れる瞬間、見えたのは、誰よりも愛しい人の叫びと、悲しいほどの絶望だった。



閃光に包まれ、意識が飛ぶ。

ふわり、と身体が揺れ、導かれる。それがどこなのか、分からないのに不思議と恐怖感はなかった。

見えたのは、一面の暗闇。とほうもなく続く暗闇に、普賢は立ちつくした。

否、本当に、立っているのだろうか?それすら、普賢には分からない。


ふと、差し込んだのは、一筋の光だった。
暗闇の中、光が溢れはじめる。

普賢は強く目を閉じた。







〜〜






「大丈夫か?普賢」

声に導かれ、目を開けると、見知った顔ぶれが並んでいた。

「道徳?それに、皆も・・」


どかしたのか、と問おうとして、ようやく、普賢は己の置かれた状況に気が付いた。

ああ、ここは。

「封神台の中、だね」

太乙と道行を除いた十二仙は、顔を曇らせる。
普賢は「ごめん」と、それから「ありがとう」と全員の顔を見据えながら、言った。

「俺たちの事なら、気にしなくてもいい」

道徳はいつもの溌剌とした声で、普賢に笑いかける。

「俺たちは、俺たちの意志でお前を信じると決めたんだ。謝る必要はないさ」


道徳の言葉に嘘は、一つもない。普賢には、分かる。否、ここにいる者たちは、皆、守りたいものがあった。そして、成し遂げなければならない計画のためにも。普賢の決断は、やらなければならない事だった。


「それよりも、普賢、お前は大丈夫なのか?」

道徳が心配そうに見つめている。他の仲間たちも、同じ想いなのだろう。普賢を、労るように見つめている。


「心配しないでね。僕は、大丈夫」


そう、大丈夫。

悲しくなんてない。
これで、願いが叶うのだから。

「大丈夫だよ」


普賢はそっと、瞳を閉じた。瞼の裏に、愛しい人の姿が浮かぶ。

彼の心は深い、深い傷を負っただろう。

そして、自分を想い、涙を流すだろう。
その涙は、どれほど、美しいだろうか。



それは、どんな言葉よりも、きっと、普賢の心を震わすだろう。
この身体が歓喜に打ち震える。
それはどんなに、甘美なことだろう。



想像するだけで、なんて、幸せなのだろうか。



普賢は、うっとりと、封神台の彼方を見つめる。




ああ、これで、彼の心に。いや、彼自身に自分を刻み込むことができた。

永遠に、彼は、普賢真人という存在を、忘れないだろう。

ああ、なんて、幸せなのだろう。






それは、痛いほどの、愛の証。






END

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