封神小話
□風涙
風涙
見上げたさきにあるのは、大きく広がる幹と茂る葉。
木漏れ日がちらちらと漏れ、太公望のもとに届く。
吹き抜ける風は、微かに冷たさを含み、頬を撫でる。
太い幹に手を当て、空を見上げる。
その先には、もう、存在しない。
懐かしい場所。
闘いに犠牲は付き物だ。
それは、分かっている。
これからも、きっと、多くのものを失うだろう。
『ただ、悲しんでくれれば、いい』
彼は、そう言って、太公望の前から消えてしまった。
また、だ。
また、大切な人を、仲間を失ってしまった。
いつだって、大切なものは、太公望の手から零れ落ちてしまう。
もう、失いたくないと、何度となく願った。
強く願えば、願うほど、その先には暗闇ばかりだ。
さわり、と風が舞い上がる。
呼応するかのように、葉が揺れ、音を奏でる。
『僕は、いつだって、君の傍にいる』
はっと顔を上げ、広がる空を見つめる。
彼は、もう、いない。
それは、分かっている。
それでも、求めてしまうのだ。
彼の人のぬくもりを、心地よい声を。優しい眼差しを。狂おしいほどの、想いを。
「普賢・・・・」
今だけ。今だけだから。
どうか、貴方を想って、泣かせてほしい。
溢れる涙をそのままに、太公望は静かに、泣き続けた。
ただ、彼の人を、想いながら。
その傍を、優しい風が吹き抜けた。
END
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