ブリーチ小説

□月が陰る
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月が陰る




月明かりが、深い夜に眠る町を照らしだす。
静かに、静かに漆黒の使者たちは、姿を消してゆく。
誰も、知らない。

それが、世界のもう一つの姿。

月だけが、ただ、それを見つめる。




現世での研修は、無事終了し、何処か強ばっていた新入隊員たちの顔にようやく笑みが浮かぶ。

ルキアは彼らの少し後を歩き、門をくぐる。
ふと立ち止まったルキアに気付いた清音が、訝しげに振り返った。


「朽木さん?どうかした?」


問うた声は、彼女には届いていない。
名残惜しいのか、閉じた門の先を、見つめている。
彼女の視線の先は、きっと。


「は〜い、さっさと戻るわよ〜!」


新入隊員たちの背を押し、清音は走りだした。
愛しい人を想うルキアをそっと見送りながら。








人影がなくなった後、ルキアは手のひらに納まる小さなウサギを見つめる。

蘇るのは、誰より愛しい人のぬくもり。

広い逞しい胸に抱き締められた瞬間、胸に止めてあった想いが溢れ出した。
止めようとしても、愛しいのだと。
後から、後から溢れだす熱い感情がルキアの心を震わす。


「一護・・・」 


駄目だと、己を戒めても、身体の熱が引かない。

もう、どうしようもないほど、彼に囚われてしまっている。


「一護、一護・・・」


何度も名を呼ぶたび、涙が込み上げて、頬を伝ってゆく。

傍に、いたいのだと。
好きなのだ、と。


今すぐ、彼の人にすがって伝えたい。

でも。


「すまぬ、一護」


己は、死神。

それは、変えることのできぬ真実だから。

震える瞼をゆっくりと閉じ、手のひらの小さなウサギに口付ける。

届かぬ想いだとしても。
それでも、彼の人を想う。

月明かりが陰る中、ルキアは背をむけ、歩き出した。




END


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まだ、届かない

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