M-2

□手のひら
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君は笑う、花のように

でもその花に触れようとすれば
この血に濡れた手の醜さが浮き上がってしまって
触れない
壊れてしまいそうで
怖いんだ


「…っ」


ぶらん、と力なく揺れる腕から血液が流れ出す
利き手じゃなかったのは救いだが、多分骨が折れてしまっている
なんとか城まで戻ってきたものの
正直大将や旦那に会わせる顔がない


「佐助」


建物の影で壁に背をあずけていると
女性特有の高い声が投げられた


「どうしたの?そんなところで」


薄い赤の着物を着た君が
とたとたと小さな足音をならして近付いてくる


「何もないよ、姫」


お願いだから
俺に近付かないで
君が汚れてしまう


「何もって…怪我してるじゃない」
「平気、大したことない」
「こっちにきて」


手を伸ばす
でもその手は掴めないよ


「ヤダ」
「どうして、手当てするから」
「自分でする」
「私じゃ嫌なの?」
「そんなこと言ってない」
「じゃあこっちに来て」


見た目だけだったら物静かで健気なお姫様なのに
妙に粘り強いのは彼女の長所なのだよう


「ごめんね姫、うれしいんだけど旦那のとこに行かなくちゃ」
「ちょっ」


姫の言葉を最後まで聞かず、姫の視界から姿を消す
只でさえ痛みと疲労でうまく身体が動かなかったのに
激しい動きをしたので身体が悲鳴をあげた

仕方がない、とりあえず旦那のところに行こう、と
重い体をのっそり動かして幸村の元へと向かう



生き殺しのように君の近くに居るのは苦しいよ、お姫様



真っ赤に染まった手のひら
(綺麗な君の世界に)
(汚い俺が足を踏み入れることは許されない)














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