拍手ありがとうございます。
ささやかですが枢と優姫のお話をどうぞ。
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日々、勉強。
これが私に与えられたやるべき事。
藍堂センパイは何だかんだ文句を言いながらもわかりやすく家庭教師をしてくれていて。
瑠佳さんもあまりに無知な私に飽きれながらも立ち振舞いやマナーを一から叩き込んでくれています。
正直泣きたい時もあるけど……
これが今の私に必要なことだから精一杯頑張っています。
そしてそれ以上に大切なこと。
それはおにいさまのお出迎えとお見送り。
「優姫?」
「……………っ」
有無を言わさぬおにいさまの微笑みと私の頬に触れる大きな手にかなうはずもなく。
俯いていた顔を上げれば少し身を屈めてくれたおにいさま。
そして私はその優しく微笑む唇に軽く触れるだけの口づけをする。
……これが私の精一杯。
習慣化することは半強制だった。
最初はほっぺに軽くだったのに。
それで満足してくれていたのに。
気付けばそれは唇を重ね合わせる、軽く触れるだけでも甘くとろけそうなものに変わっていた。
「あの……普通に挨拶じゃ駄目なんですか?」
「……普通?
今のが普通だろう?」
訊ねてみても返ってくるのはそんな答え。
簡単に予想は出来ましたが……
挙げ句の果てに「そんなことを聞くなんて体調でも悪いの?」なんて逆に心配されてしまったくらい。
おにいさまにかなうはずなどない。
……でも。
かなわないのは百も承知。
照れているだけじゃあの人の思うつぼ。
それも何だか悔しいから。
「おかえりなさい、おにいさま」
「ただいま、優姫」
駆け寄ればおにいさまは疲れなど欠片も見せず優しい微笑みを浮かべてくれる。
いつもならここで周りが思わず頬を赤らめて目を逸らす様なご挨拶。
でも私はくるりとおにいさまに背を向けて階段を上り始める。
途中で止まって振り向くと、人生で一番の哀しみにぶち当たったと言っても過言ではない様な大袈裟な表情を浮かべたおにいさまがその場に佇んでこちらを見つめていた。