*一周年記念*

□がまんする気は初めからないよ
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ただ、僕の傍で微笑んでいて。
願わくば君のその細い指と僕の指とを絡め合い二人きりで穏やかな時間を過ごしたい。


でもね。


本当は君の全てが欲しいんだ。


僕を見つめる憂いを帯びた瞳も、君の香りを振りまくように艶やかに長く伸びた綺麗な髪も、僕を呼ぶ薄く濡れた形のいい唇も、儚さを感じさせる白く透けるような肌も、僕を誘う甘美な香りの血も。

君の頭の先から爪先までどれも全部欲しいんだ。

一つとして誰にも譲れない。
譲らない。




…僕はこんなにも深く君に執着している。
これを君が聞いたらどう思うのだろう。

怯えるのだろうか。
喜んでくれるのだろうか。

いずれにせよこの気持ちを打ち明けるつもりはない。
いくら彼女に感情を込めた言葉を並べたところで、本当に愛しいと思う彼女への僕の行動に勝るものなんてないから。




何も知らずベッドで小さな寝息をたてて眠っている優姫の傍らに座り、その穏やかな寝顔を眺めながらそんな事を思う枢は自らを嘲笑した。


枢は目覚める気配のない優姫の髪を一束手に取りそっと口づける。

ねぇ優姫、目を覚まして?
目覚めてくれれば遠慮なく君を抱き締められるから。

さすがに幸せそうに眠る優姫を起こすのには気が引けて、ただただ優しく見守る枢はそう思う。




「…………ん…」




枢の願いが通じたのか優姫の瞼がぴくりと反応し、薄く開かれた唇からは微睡みからゆっくりと浮上する柔らかい声が洩れた。




「優姫…起きた?」


「ん……おにぃ……さま…?」




寝呆けたまま眠そうな目を擦る優姫の頬に優しく触れた枢はそっと彼女の額に唇を寄せる。
優姫はくすぐったそうに肩をすくめ、ゆっくりと瞬きしながら自らの頬に触れている枢の手に自分の手を重ねた。

絡まる視線。

枢はくたりとベッドに沈んだままの優姫の上半身を起こし、そのまま自分の腕の中へと閉じ込める。
優姫も甘えるように少し開いた枢の胸元に頬を擦り寄せた。




願いは叶えるもの。

言葉などいらない。
"我慢"などという言葉は邪魔なだけ。


枢は慣れた手つきで首筋を掠めながら優姫の長い髪を優しく除ける。
その動作に枢が何をしようとしているのか理解した優姫はぎゅっと枢に縋りつくように胸元を握り締めた。


冷たくて、しかしそれでも温かい唇が優姫の首筋に触れる。
生温かい舌に首筋をなぞられるのを感じた瞬間、優姫を痛みと快楽が同時に襲った。




「あ……っ、」




優姫の首筋に穿たれた枢の牙。
溢れ出るのは深紅の血と甘美な香り、そして優姫の枢に対する想い。

とめどなく溢れ出るそれらを存分に味わい、枢は口元を拭いながら自らの腕の中で浅い呼吸を繰り返す優姫の瞳に視線をうつした。




「ごめんね。我慢できなくて…」




違う。

本当は「我慢しなくてごめん」だ。


枢は虚ろな瞳を向ける優姫の髪を梳いてやりながら優しく告げた。
…本心は微笑みの下に隠したまま。




「……ずるい、です」


「じゃあ優姫も…僕の血が欲しい?」




その枢の問い掛けに返事もなく、優姫は枢の首筋にそっと舌を這わせ本能のままに牙を突き立てた。




そうか…
僕だけではなかったんだね。


僕も、優姫も、お互いを前にして冷静ではいられない程に心も躯も侵食されているようだ。




自身の血が優姫を満たしてゆく感覚に浸りながら、枢は今日はこのまま二人で指を絡めて一日を共にしようと決めた。






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