*novel*
□想いひとつ
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「優姫の好きな方がいいな」
最近気付かされた事。
何かを選ぶとき、どちらがいいか私が訊ねると大抵おにいさまは優しい微笑みを湛えてそう言うという事。
例えば紅茶は何がいいかとか、カーテンの色は何がいいかとか、部屋に飾る花は何がいいかとか、そういった質問に対しては基本的に。
私がよければそれでいいと言う。
私の好きな方"で"いい
じゃなくて
私の好きな方"が"いい
……と。
おにいさまの中では私が白と言えば黒は白になるし、反対に私が黒と言えば容易く白は黒になるらしい。
そんな周囲も真っ青な理論を展開するあの人のことだから私が冗談で「世界が欲しい」なんて言ったら本気でプレゼントしてくれそうな気がして、冗談なんて恐ろしくて言えないということをここ最近思い知らされているところです。
私のためにしてくれること、嬉しいと思う反面、おにいさまは限度というものを知らないからそれが怖い。
まだこの世界の事を何も知らない無知な私だから、慎ましく波風を立てないように生活してきたけれど……
でも、そんな風に言われるがまま控え目ながらも自分の好きな方を選んできた私もいよいよ反抗したくなる時期が来て。
またしても私の問い掛けに対してどんな女性でも虜にしてしまうであろう微笑みと共にいつもの返事をしたおにいさまに思い切って聞いてみることにした。
「あの…本当に私が決めちゃっていいんですか?」
「勿論。優姫の好きなものは僕の好きなものだから」
恥ずかしげもなくさらりとそんな台詞を言ってのけるおにいさまに内心拍手を送る。
普通の人ならここで上手くあの微笑みと台詞に丸め込まれてしまうはず。
でも私は冷静に、それでも若干顔を熱くさせながら反論した。
「でも…おにいさまの好きなものは私の好きなものでもあるんですよ?」
おにいさまへの巧い対応を学んできた私。
私だってただ時間の流れに任せてこの自分が育った懐かしい屋敷で過ごしてきたわけじゃない。
こんな台詞を返せばきっとあの人は喜んでくれるはず。
そして私の意見も聞き入れてくれるはず。
恥ずかしい台詞もおにいさまになら言えるのは、これが確かに本心だからだと思う。
でも視線を外しながらも思い切って告げた言葉に対して何も反応が返ってこなくて。
おかしいな、と思って横目に見ると、おにいさまは少し目を見開いて驚いた様子を見せていた。
私を見て茫然と固まっている様なんてなかなか見れるものじゃない。
その反応にこっちが驚いてしまった。