*novel*


□トリックオアトリート!
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静寂に包まれた夜。
月は輝き不気味なほどに屋敷を照らしていた。

それも当然。
そこはヴァンパイアの中でも最も高貴な玖蘭の屋敷なのだから不気味な雰囲気を醸し出していてもおかしくはない。




しかしそんな中、玖蘭の屋敷に響いたのは皆が怖れるような不気味さからは遠くかけ離れた明るい優姫の声だった。






「おにいさま、トリックオアトリート!!」




勢いよく扉を開けて枢の前に姿を現した優姫は心から楽しそうな笑顔を浮かべている。
突然の出来事にも全く動じず、枢は読んでいた本から顔を上げ優姫へと視線をやった。


突然響いた扉の開く大きな音には動じなかった枢。
それでも優姫を見た瞬間僅かに目を見開いた。




「………優姫?
今日はやけに部屋に籠もっていると思ったら…そういうこと?」


「おにいさまを驚かせたくて内緒にしてたんです!
どうです?似合ってますか?」




優姫は黒い衣装に身を包み、猫耳と尻尾までつけて黒猫に扮していた。
枢によく見える位置まで寄ると、くるりと一回転してみせる。




「とても似合ってるよ。
…そうか、今日はハロウィンなんだね」


「そうです!
だからおにいさま、トリックオアトリート、です!」


「お菓子をあげないとイタズラされてしまうんだね。
……あぁ、でも今はお菓子を持っていないんだ」




両手を優姫に向けてさも残念そうに枢は言う。
優姫はそんな枢の反応を見て慌ててフォローにまわった。




「あ、いいんです!
そんなお菓子を楽しみにしていたわけでもなくて……えぇと、とにかくハロウィンを楽しんでみたかっただけなんです」


「そうなの?でもお菓子をあげられなかったんだから…僕は優姫にイタズラされないといけないね」




どこからでもどうぞ、と言わんばかりに枢は両腕を広げて優姫に無抵抗な様子を見せた。
すっかりその気の枢の様子に優姫はさらに慌てる。



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