*novel*
□君の香りに嫉妬して
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ふわり。
すれ違う度に君の香りが甘く鼻腔をくすぐる。
僕はその本人も意識していないだろう誘惑的な香りを本能で記憶しているに違いない。
"特別な子"の残り香は僕に安心と同時に切なさすら与える。
そんな君に唯一確実に会える僕等の登校の時間。
今日も君は挨拶もそこそこに体を張って風紀委員の業務をこなしていた。
「優姫、お疲れ様。
あまり無理すると怪我してしまうよ?」
必死に他の生徒を制止している優姫は僕の声にパッと顔を上げて、いつもと変わらない屈託のない笑顔を見せた。
「あ、はい!大丈夫です!!」
とても大丈夫そうには見えない。
心配だなと思いながらも歩き始めようとした時、何人かの悲鳴が聞こえた。
優姫がバランスを崩し、制止していた他の生徒たちも前のめりになって優姫はその下敷きになりそうになる。
僕はすかさず優姫を支え、彼女が倒れるのを防いだ。
「ほら。だから言っただろう?大丈夫?」
「…あ、ありがとうございます!」
近距離で目が合った瞬間、優姫は顔を真っ赤に染めながらぱっと僕から離れ、深々とかしこまってお辞儀をした。
その時優姫から仄かに香ったのはいつもと違う香りで、僕は無意識に眉をひそめる。
それが、確か零と同じものだったから。
好ましくないものでも…好ましくないからこそ自然と記憶してしまうものだ。
だから彼のも何となくわかってしまう。
僕の嫌いな香り…
その香りを纏った優姫を前に、僕は徐々に沸き上がってくる感情を抑えることが出来なかった。
「優姫、授業が終わったら話があるんだ。僕のところに来てもらってもいい?」
そっと耳打ちすると、優姫は耳まで真っ赤にさせて小さく「はい」と頷いた。
僕は我儘だ。
優姫のこととなるとどんな事でも譲れないんだから……