*novel*
□隣
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当たり前のことが当たり前じゃなくなるとき、貴方は何を思いますか?
ねぇ、教えて。
* * *
「……わかった。
じゃあ零とは…暫く必要以上に話さないよ…
………ごめんね……」
淋しそうな目をして優姫はそう告げ、零の部屋を後にした。
零は優姫を引き止めることもその姿を見るため振り返ることもせずにベッドに腰掛け床の一点を見つめる。
パタパタと慌ただしい優姫の足音が遠退いていき、その音が聞こえなくなると零は大きくため息をついた。
何故こんなことになったのか。
それは近頃授業をサボりがちだった零の為に、優姫が少しばかりのお説教と授業のノートを届けに零の部屋を訪れたのが始まりだった。
最初はノートの内容や誤字脱字など他愛もない話をしていた二人だったが、優姫が零に休みがちなのは体調が悪いのか、とか何か隠し事でもあるのではないか、とか尋ね始めたあたりで空気が重くなる。
零は優姫には悪気があるわけではないし、寧ろ心から心配してくれているからこそ真剣に尋ねてくるとわかっていた。
それでもその善意を素直に受け止められない自分がいるのも自覚している。
そんな自分に嫌気がさしているところで優姫が「血が欲しいの?」なんて自らの髪を分け首筋を曝け出しながら言うものだから、零は自制を失いそうになる寸前でどうしようもなく声を荒げるしかなかった。
「いい加減、俺に構わないでくれ」、と。
いつもはこの程度では引き下がらない優姫だが今回はいつもと違う空気を察したのか、ビクリと一瞬身動ぎ俯いて慌てて髪を撫で整えた。
明らかに動揺を隠せない様子で優姫は立ち上がり「そうだよね…」なんて言いながらドアへと小走りに向かう。
ここで、あのセリフ。
"暫く必要以上に話さないよ…
………ごめんね……"
零は何も反応してやらなかったことが今になって心苦しく思われたが、素直ではない自分が今更どうこう出来る筈もなく本日二度目のため息をついてベッドに倒れこんで目を閉じた。