*novel*


目覚めはあなたと共に
1ページ/3ページ


「優姫、起きて」

「……ん…」


優姫はゆっくり目を開ける。
その開いた微睡む瞳に映るのは、愛しき人の優しい微笑み。


「なかなか目を覚まさないから…
もう起きないのかと思ってしまったよ」


くすっと枢は微笑み、枕に頭を預け大きな瞳を向けている優姫の長い髪を梳いた。
ベッドに腰掛け自分を愛しそうに見つめる人をはっきりと認識し、優姫は微睡みから一気に現実に引き戻され、血の気が引いていくように感じた。


「おにいさま……私また……」


はっとして飛び起きた優姫は申し訳なさそうに下を向いて表情を曇らせる。
そんな優姫の頬を枢は優しく包み、変わらぬ微笑みを見せた。


「気にしなくていいんだよ。優姫が悪いわけじゃないんだから」

「でも私……またおにいさまに迷惑を…」


優姫は、枢が気にしなくていいと言っても自分が気にするし耐えられない、と思った。

それは、目覚める時間のこと。

人間として生きてきた優姫は太陽と共に一日が始まり、月が輝きを増す頃には眠りに就く生活を送っていた。
学園のガーディアンをしていたときはそんな生活も乱れがちだったが、人間であり太陽と共に生きることは考える迄もなく、本能的に当然のことだった。

それが今、真逆なわけで。

ヴァンパイアとして覚醒し、その本能のままに血を求めたりしたわけだが、どうも夜型生活にはなかなか馴染めない。
夜の帳が降りた頃に目覚める事。
それが優姫にはなかなか出来ず、毎日枢に起こされる日々が続いていた。

おにいさまにもう孤独を感じて欲しくない。
だから、おにいさまが目を覚ましたときには私が笑顔でその瞳に映っていたい。

優姫はそう心の底から思っているのに、なかなかそれは叶わない。
その原因は、何となく優姫自信もわかっていた。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ