*souvenir*

□ひとりじめ
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窓の無い、外界と一切交わりのない部屋。

そんな玖蘭家の屋敷の一室で繰り広げられるのは、ただ幼い優姫を溺愛する、外部の者からは決して想像出来ないであろう純血種の姿だった。






「なんか……面白くないわ」




ボソッと呟かれた言葉を聞き逃すはずもなく、枢はつまらなそうに頬杖をつきながらこちらを見ている樹里の方に目を向けた。

絡まずに聞き流す事も出来たが、そうしたところでこの歳の割には見た目も中身も若過ぎる母は意地でも絡んでくることを枢は嫌という程知っていた為、最早恒例とも言えるお決まりの台詞を投げ掛ける。




「……どうしたんですか?」


「なんか、面白くないのよ」




尋ねてみても返ってくるのは同じ台詞。

しかも不機嫌そうな表情は崩れそうにない。

何がそこまで面白くないというのか枢には分からず対応に困っていると、枢にぴったりと寄り添って絵本を広げていた優姫が心配そうに口を開いた。




「おかあさま、どうしたの?
どこかいたいところがあるの?」


「そうなのよ優姫。お母様は…
……そうね、実は頭が痛いの」


「そうなの?それはたいへん!」




そんなみえみえの仮病なんて使わなくても…と枢は思ったが、優姫がそれを見破れるはずもない。

悲しそうな顔をした樹里に子供ながら何かを悟った優姫は、慌てて絵本を置いて枢の傍を離れ樹里の元へと駆けていく。

そして樹里の傍へと辿り着いた優姫は近くにあった椅子を運んでその上にのぼり、心配そうに樹里の頭を撫でた。




「おかあさま、いたいのいたいのとんでけー!」


「まぁ、ありがとう優姫」




樹里はあまりにも可愛すぎる優姫にデレデレとした微笑みを向けつつ、頭を撫でられながらどこか勝ち誇ったように枢を見た。




あぁ、そういうことか。


枢は樹里のそんな様子に先程の言葉の意味を理解しながらも、優姫をとられてしまったことで嫉妬心に胸を埋め尽くされた。

しかも頭を撫でられているなんて羨ましすぎる、と。




「……お母様。もういいでしょう?
優姫も絵本の続き読んであげるから早く戻っておいで」


「あら、まだ私頭痛いのよ?
だから優姫、行っちゃやだなぁ」



枢に見せつけるように優姫をぎゅっと抱き締め頬擦りしながら樹里はにこにことそう言いのけた。

そんな樹里の挑発ともとれる言動に、いつもなら受け流す枢も優姫が絡んでいるとなると冷静ではいられない。




「お言葉ですがお母様…
そんなに頭が痛いのならば早くお休みになった方がよろしいのでは?」


「そうねぇ…じゃあ優姫も連れて先に休ませてもらおうかしら」


「……優姫はまだ絵本の続きが残っていますから僕が預かります」


「もー…
そんなに優姫のこと返して欲しいならそう言えばいいのに!」




素直じゃないわね。

からかっているのに表情一つ崩さず淡々と自分の意のままに事を運ぼうとする枢に、樹里はぶつぶつ小言を言いながら優姫を自分の膝の上に乗せた。

そんな樹里の行動にてっきり優姫を返してくれるものだと思っていた枢は少し眉間に皺を寄せる。


堪らず枢が樹里に優姫を返してほしいと伝えようとしたとき、部屋に何も知らない悠が入ってきた。



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