*souvenir*
□特別だから
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「枢様、お帰りなさいませ。
お召し物お預かりいたします」
「あぁ、ありがとう」
「枢様、お茶の用意が出来ております」
「悪いね…」
優姫はそんな枢と使用人のやり取りを聞いて、胸にもやもやした感情が渦巻いているのを感じた。
……いつもはそんなことないのに。
おにいさまが長く家を留守にしていたせい?
久し振りに会った気さえするのに、私じゃなくて使用人の人達に微笑むの?
そんな感情が湧いたこと、そしてそんな醜い自分に耐えきれずに優姫は帰宅した枢に挨拶も出来ず逃げるようにして居間に駆け込んだ。
本当はおにいさまを笑顔でお出迎えするはずだったのにな……
優姫の心の声は発されることなく、喉につかえたように更に気分を悪くさせていく。
こんな状態では、とても枢の前には出れそうにない。
優姫はクッションを抱え、顔を埋めてソファで丸くなっていた。
「……優姫?」
優姫の耳に今一番聞きたいようで聞きたくない枢の声が入ってくる。
優姫は感情を抑える事が出来ないと思い顔を上げることが出来ず、ぎゅっとクッションを握り締めた。
「優姫、ただいま。
やっと帰って来れたから君と一緒にお茶しようと思ったんだけど……嫌?」
「……嫌じゃ、ない…です……」
いつもなら真っ先に出迎えてくれる優姫が今日はソファに踞り、顔すら見せてくれないことに枢は違和感を覚える。
留守の間に何かあったのか、とさえ枢は思った。
「……具合、悪いの?」
どこか様子のおかしい優姫の正面に座り込み、枢は下から見上げるようにして顔を埋めたままの優姫に問い掛ける。
「……悪くないと言えば…嘘になります」
「……今日はどうしたの?
なんだか優姫らしくない……
僕の留守中に何かあった?」
そっと枢が優姫の膝に手を乗せる。
それにピクリと微かに反応した優姫は躊躇いがちに少しだけクッションから顔を覗かせた。