*souvenir*

□触れていいのは僕だけ。
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優姫が純血種として覚醒してから暫くして、必然的に優姫は枢と共に夜会に出席するようになった。

今日も優姫は夜会にて、戸惑いながらも自らに寄せられる羨望の眼差しや賛美の言葉を受け止めて微笑みを絶やさずに対応を続ける。

とりあえず微笑んでおけば間違いないだろう…
優姫はそう思っていた。

難しい話も、堅苦しい言葉遣いも、枢に迷惑がかからない程度に笑顔で乗り切ろう。
枢に恥をかかせるような真似だけは避けなければ…
優姫は自らにそう言い聞かせて枢から少し離れたところで好奇の視線を向けてくる吸血鬼達に囲まれながら対応を続けていた。


その波も落ち着いてきた頃、優姫が疲れから周りに気付かれないよう静かにため息をついたとき、突然下の方から声がした。


「ゆうきサマ!」


優姫が視線を下にやると、そこには小さな男の子が優姫を見上げ満面の笑みを湛えて立っていた。

可愛い…
優姫はそう思い、今まで淑女の様に振る舞っていた微笑みではなく、心からの穏やかな微笑みをその男の子に向ける。


「ゆうきサマ、どうぞおうけとりください!」


一生懸命に丁寧な言葉遣いでそう言った男の子は、優姫に向けて小さな一輪の花を差し出した。
その花は男の子が自分で摘んできたと思われる綺麗なもので、優姫は男の子に視線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「ありがとう、綺麗なお花だね」


微笑みながらその花を受け取りそう言えば、男の子も満足したように笑い、優姫の頬にキスをした。

呆気にとられる優姫。

前にもこんなことがあった…
吸血鬼の子供は牙がないから生気を吸う。
優姫もそれで人間だったときに気を失って倒れた記憶がある。

さすがに覚醒した今となっては気を失って倒れることもないが、突然のことに優姫が驚いていると、その男の子の母親であろう人が慌てて駆け寄ってきた。


「申し訳ありません!優姫様!!」


その母親は男の子の頭を下げさせ自らも優姫に向かって頭を下げた。
優姫も慌てて立ち上がって顔を上げるように言うが、母親はひたすら謝るばかりで決して顔を上げてはくれない。


「うちのものが優姫様に無礼を…
本当に申し訳ありません!!」

「大丈夫ですから、顔を上げてください!」


この騒ぎに周りも騒ついてきて、どうしようもなく困り果てていた優姫のすぐ後ろから聞き慣れた声がした。


「優姫は大丈夫だと言っていますので、もう顔を上げてください」

「……おにいさま!」


優姫が振り向くと、そこには紳士的な微笑みを湛えた枢の姿があった。
枢の介入にその母親もさすがにおずおずと顔を上げる。


「本当に申し訳ありません…」

「ゆうきサマ…ごめんなさい……」

「大丈夫です!気にしないで下さい!」


まだ謝罪の言葉を発し続ける母親につられて男の子も泣きそうな顔をして優姫に謝る。
それに優姫も心を痛めて大袈裟に明るく振る舞った。


「優姫がこう言っていることですし、皆さんも気にせずどうぞ楽しくやってください」


枢の一言であっという間に今まで険悪な雰囲気さえ漂っていた会場の空気が元通りになる。
こんな時でもいつもの笑みを絶やさずにいる枢はやっぱり凄いと優姫は改めて実感した。



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