*souvenir*

□森に響くは二つの鼓動
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「零!ほら、一緒に行こ!!」

「……あぁ」




優姫に手を引かれながらも零はため息をつかずにはいられなかった。

そもそもこんなイベントに参加しなければいけないこと事態くだらないと零は思う。
わざわざ日の沈んだ頃に学園の敷地内にある森の入口に集まる必要性があるのか?




『肝試し』というもの……




どこが面白いのか全く理解出来ない。
何故これが毎年学園恒例イベントになっているのか理解に苦しむ。
そして都合よくナイトクラスが休講なのも何かの思惑を感じる…

いくら全員強制参加だといえども優姫に連れてこられなければ自分はこの場にすら居なかっただろう。


そう考える零は皆の異様な盛り上がりについていくことは出来ず、第三者の目で冷ややかに傍観していた。




「皆さん!ペアは決まりましたか!?」


実行委員らしき人物が楽しそうに言うと皆が元気よく返事をする。
相変わらず零にはため息しか出ない光景だ。


「男女ペアなんだって…零は私とでいいよね?」

「やだって言ってももう残り物同士組むしかないんだろ?」

「何その言い方っ!」


ふてくされて頬を膨らませた優姫は「どうせ私とじゃ代わり映えしなくてつまんないでしょうねーっ」なんてぶつぶつ言っている。
しかし直ぐにぱっと笑顔になり零に向き直った。


「まぁ今日は守護係の仕事なんて忘れて楽しもうよっ!」

「……何が楽しいのかわからない」

「ほらほら、そういう事言わない!!」


そんな風に他愛もない話をしていると、あっという間に二人の順番が回ってきた。


「この道を真っ直ぐ行った先に折り返し地点があって、そこに魔除けの十字架が置いてあります。
それを持ってまたここまで戻ってきて下さいね!」

「は、はい!」

「気をつけていってらっしゃーい!」


説明を受けて優姫と零は森の中へと進んでいった。









「…なぁ、優姫……」

「何っ!?」

「……さっきからくっつき過ぎ」


話し掛けただけで優姫は飛び上がるような過剰なリアクションを見せる。
考えてみれば先程説明を受けていたときの返事も妙に硬かったような震えていたような…

零はあえてそれは言わず、優姫を訝しげに見ながら進行方向を手持ちのライトで照らした。


「そ…そうかな?
そんなにくっついてない…」


優姫が言い掛けた瞬間、突然木の影から気味の悪いお面を被ったオバケ(役の人)が奇声を上げて飛び出してきた。




「っっきゃあぁぁぁぁーーっっ!!!!!」




優姫の悲鳴が森中に響き渡る。

あまりの声量に零は耳を塞ぐが、右耳は右腕に思いっきり優姫がしがみついていたため塞ぐことが出来なかった。


「…おい優姫………」


優姫の悲鳴でキンキンしている頭を押さえながら、零は最高に不機嫌な表情で優姫を睨む。
当の優姫は零の腕にしがみついたまま顔を上げることなく震えていた。

そんな優姫の姿を見て、零からは怒る気すら失せていく。


「…もういなくなったぞ」

「ほ、ほんと?」


優姫が恐る恐る顔を上げる。
確かに先程の気味の悪い物体は再び元の物陰に隠れた様でいなくなっていた。

ほっとため息をつき零から手を離す優姫。


「優姫…もしかして怖いのか?」

「なっ……まさか!!
だってこの森…毎日零と別々に一人で見回りしてるんだよー!?」


無理に笑いながら言う優姫の目の前に今度はいきなり大きな蜘蛛の人形が降ってきた。




「っキャァァーーーッっっっ!!!!!」




やっぱり優姫は零の影に隠れ、制服が皺になるくらい強く零にしがみついた。


「……お前…………」

「だってだってだって!!
おっきい蜘蛛が!今!!!!!」


驚かす側は優姫みたいのがたくさんいれば相当楽しいんだろうな…

零は目の前にぶら下がった蜘蛛の人形が吊り下げられている糸を手繰り寄せられて上っていくのを目で追いながら思った。


「ほら、もう蜘蛛もいなくなったぞ」

「……あ、ほんとだ」


ひょっこりと零の後ろから顔を出して優姫は安堵のため息をつく。
零は今までの様子を考え、自分から手をぱっと離した優姫の手をとり強く握った。



「ぜ……零?」

「くっついたり離れたりは煩わしい。
…初めからこうすればいいだろ?」



驚きを含む声で自分を呼んだ優姫にそう告げて、零は手を握り直しながら歩き始める。




「ほら、さっさとこんなもん済ませるぞ」

「………うん!!」




優姫は笑顔になり、繋いだ手をそっと握り返した。









*おまけ*


「ぃやぁーーーーーっ!!!!!」

「ぁ、バカっ……いてっ!!!」


何かある度に騒ぎ暴走する優姫。

暴走した優姫が繋いだ手を離すわけもなく、零の腕は本来曲がらない方向に何度も曲がりそうになる。


それに耐えきれなかった零は。




「……もういい。
お前は俺の後ろからついてこい。
何も見るな。聞くな。
面倒くさい。」

「……………はい。」


大人しく返事をした優姫は零の背中に頭をぴったりくっつけて後ろから零に抱きつく。


「……いや、それじゃ歩けないから」

「無理!歩いて!早く進んで!!」

「……………」




零が優姫を引きずるようにして進んだお陰で、二人のゴールのタイムは最下位に近かったとか。




***

夏といえば肝試し。

優姫はお化けとか駄目なイメージ。
零は信じる信じない以前に興味なさそう。

零は何気なく手繋ぎましたが、内心お化けにではなく優姫と手繋げて心臓バックバクって設定です。笑

普通の高校生の青春目指しました!




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