*souvenir*

□空に咲くは白の誘惑
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「ただいま、優姫」

「おかえりなさい、おにいさま」




いつも通りのお出迎え。
しかし、優姫は枢の荷物がいつもよりやけに多いことに気が付いた。

なんだか大きな袋を抱えてる…?

枢も優姫の視線が自分の持つ袋に向けられていることに気付き、微笑みながらそれを差し出した。


「はい。優姫にお土産だよ」

「……何ですか?」

「開けてみて」


ただ微笑んで優姫が開けるのを待つ枢。
優姫は首を傾げながらも大きな袋を開けてみた。

そこには……


「浴衣……ですか!!」

「優姫に着てほしくて思わず決めてしまったんだ」


袋の中には浴衣の帯やら髪飾りやら一式が。
この結構な重量感のあるセット一式をおにいさまは私の為に……
うれしさのあまり優姫の表情は緩む。


「おにいさま、ありがとうございます!」


枢もお土産をぎゅっと抱き締めた優姫の笑顔を見て満足気な微笑みを浮かべ、そっと彼女の頬を撫でた。
それだけで頬を染める優姫に、二人を包む空気は誰も邪魔することは出来ないくらいに甘いものとなる。


「優姫、着てみてくれる?」

「はい!」


枢はその場に控えていた使用人に目配せした。
使用人もそれに応えにこやかに頷く。


「さぁ優姫様、こちらです」

「あ、はい!」


そうして優姫は使用人に浴衣を預け、着替えのために連れられていった。









「おにいさま」


優姫の声にソファで本を読んでいた枢は顔を上げる。
その視線の先には浴衣姿ではにかんだ優姫がいた。


「どうです?似合ってますか?」


頬を染めて照れながらも、優姫は袖を持って枢の前でくるりと一回転してみせる。


「とても似合ってるよ。
やっぱり優姫には白がよく似合うね」

「本当ですか?」

「僕は嘘は言わないよ。すごく可愛い」


優姫はその言葉に耳まで真っ赤にさせた。
その姿も仕草も微笑ましい。
一秒でも目を逸らすことは惜しいと枢は思った。


白地に花柄の浴衣に紅色の帯が映える。
アップにした髪型に添えられた和風の髪飾りも優姫の美しさを際立たさせていた。




「おいで」


枢は優姫を自分の隣に座るよう促す。
歩きづらいのかおずおずと歩み寄り優姫は枢の隣に腰を下ろした。



ついこの前までは幼い少女だったのに。
いつから僕の優姫はこんなにも素敵な女性になったのだろう…



「少し、淋しい気もするな」

「…淋しい?」

「何でもないよ」


自分の独り言で優姫に心配そうな顔をさせてしまい、枢は苦笑しながら誤魔化すように優姫に口付けた。


「今日は、そのままでいて?
…僕はちょっと用事があるんだ」


枢は髪をアップにして露になった優姫の首筋に誘惑されながらも表情に出すことはせずにそう告げて、ゆっくりと立ち上がり優姫を残したまま部屋を出た。


優姫の血で満たされたい思いはある。
そして自分で笑ってしまうがそれ以上に男の性というものも。
だから隣に座らせたといっても過言ではない。
けれど、今はあの白い浴衣を…肌も心さえも穢れのない白である優姫に牙を突き立てることは躊躇われた。

こんなもどかしい思いをしようとは。
あの髪型にセットしたであろう使用人の策略か、とさえ枢は思ってしまう。


「さて……」


枢に用事があるのは本当だった。
優姫へのお土産の浴衣と共に、もう一つ袋を抱えてきたのだから…









「おにいさま、なかなか戻ってこないなぁ…」


待ちくたびれた優姫は欠伸をしながらソファの肘掛けに頭を預けた。
うとうとしながら枢を待つ姿はまるで子供のよう。
優姫がまさに眠りの世界へ引き込まれそうというときに、部屋の扉が開いた。


「優姫、待たせたね。
ごめん……寝てしまった?」

「大丈夫ですっ!!
………あ、おにいさま……」


枢の登場に飛び起きた優姫の心臓は、いろんな意味で飛び跳ねた。


「おにいさまも……浴衣着たんですね」

「そうなんだ。どうかな?」

「……素敵です、とっても」


何故か褒めた優姫が照れる。
枢はそれに微笑みながら優姫に歩み寄った。


「ありがとう……
着替えと準備に時間がかかってしまって…遅くなって本当にごめん」

「……準備?」


枢は答えずに優姫の手をとった。


「さぁ、行こうか」

「………?」


何処へ?

そう尋ねる前に半ば強引に手を引かれて優姫はただ枢に着いていくしかなかった。









陽は落ちて月が輝く空。
そんな月の光に照らされるバルコニーに二人の姿はあった。


「おにいさま、あの……」

「そろそろだよ」


言い掛けた優姫の言葉を遮り枢は遠くの空を見つめる。
それに倣って優姫も不思議に思いながらも空を見つめた。


すると、空に昇る一筋の光。


「わ……」


優姫が思わず声を漏らす。
全てを理解した瞬間だった。


次の瞬間には空に大きく花が開く。
とても綺麗な、花。


「わぁっ……!
おにいさま、これを見るために浴衣を用意してくれたんですか?」

「花火大会というものが催されると聞いたから。
優姫と花火、見たかったんだ」


次々と空に打ち上がる花火に、そして枢の優しさに、優姫は涙が出そうになる。


「綺麗……」

「優姫には適わないけれどね」


枢は花火に目を奪われている優姫を後ろから抱き締めた。

やはり誘惑には勝てない。

優姫の露になった首筋に唇を寄せ、浴衣の合わせに手を掛ける枢。
それに気付き優姫は慌てて枢を制止した。


「ちょっ……おにいさま!」

「何?」

「何?じゃないですっ!!
着崩れたら私、自分で直せないんですから!」


ん?
私…今、問題発言した?

優姫はそう思ったが遅かった。


「じゃあもう逃げられないね。
逃がさないけれど。」


目の前の花火はとても綺麗。
おにいさま、今は私じゃなくていいです…
お願いですから花火を見ましょう?


そんな優姫の願いも虚しく枢は止まらない。


「ほら、浴衣って元から着崩れやすいから」


だから大丈夫。

どこから来る自信なのか、そんなことを言って枢は花火には目もくれずに優姫しか見ようとしない。




優姫が花火を見れなくなったのは、花火大会が始まって1分も経たないときだった。









*おまけ*


「そういえば準備って何だったんですか?」


「ここから花火の見える方角にちょうど邪魔な障害物があったから…

……ちょっとね」




……消したんですか?


優姫は青ざめたが、それは恐ろしくて決して聞くことは出来なかった。




***

夏といえば浴衣。
夏といえば花火。

かなり無理な設定でしたがいかがでしたか?

とりあえず枢様に言いたいことは、せっかく自分でセッティングしたんだから花火見てください。笑




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