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□FRIEND〜小猿の友人の段〜
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小松田「みんな気を付けてね〜!」

「「「行ってきま〜す!」」」

「行ってきます」




四つの外出届を片手に事務員の小松田は私服に身を包む一年は組乱太郎、きり丸、しんべヱ、そして芙蓉に門の前で手を振る。
門を潜り手を振る小松田に芙蓉たちも振り返し、唐突に言い渡された学園長のおつかいにへと出かけた。
そして四人が無事出発したことを見届けた小松田は門を閉じ、鍵を掛けて外出届を事務室に届けに向かうのだった。

誰もいなくなった忍術学園の玄関。
静寂を破るかの如く鶯が囀る中、そこそこ高さがある筈の塀から突如、ヒョコリと少女が顔を突き出て来た。
少女はむむむっと口をへの字に曲げ辺りをキョロキョロと見渡すと、少女の険しい顔がふと緩み可憐な笑みを浮かべる。




「大丈夫です、誰もいません!」

「姫巫女様、芙蓉姉ちゃんもいねぇだか?」




なんと少女の正体は伊予河野隠し巫女“鶴姫”本人。
日々とある海賊から瀬戸内の海を守らんとする彼女の隣で再び小さな頭が並んだ。




鶴姫「残念ですがいつきちゃん、芙蓉ちゃんは見かけないです…」

「何だよ。芙蓉がいなかったら意味ないじゃん!」




少女の名は“いつき”ツインテールのおさげがよく似合う小柄な少女だが自分の身長とほぼ同じハンマーを振り回す程の怪力少女でもある。
そしてまた隣に並ぶ頭は前髪を上に結び額を露わにするいつきと同い年程の少年。




「ねえ!蘭丸くんもみんなもやっぱり忍の寺小屋に忍び込むなんてよさない…!?見つかれば怒られるだけじゃ済まされないよぉ〜!」

「ここまで来て何を言っているのですか!つべこべ言ってないでさっさと上がって来なさい!」

「こんなに高い塀登れないよ宗麟くん…!」




少年は尾張の織田信長に仕える小姓“森蘭丸”。“魔王の子”と言えば屈強な武将でも脚が竦んでしまう渾名だが鶴姫の言葉に不貞腐れる彼からは想像し難い。
そんな蘭丸の更に隣からこのご時世では至極珍しい南蛮風な黒帽子に服装、片手には聖書を抱えた“大友宗麟”が塀の外側に向かって怒鳴った。
宗麟に怒鳴られたカブト虫を思わせる兜をかぶった彼“小早川秀秋”渾名は“金吾”は眉を下げ高い塀を見上げて瞳を潤ませている。非常に情けない姿だがこれでも一国の城主であるから世の中不思議が尽きない。

何故他国の名の知れた武将、農人が忍術学園に訪れたのか…?普段は揃う事が無いこの面子、しかし揃う時は必ずとある人物が関わってくるのだ。




蘭丸「蘭丸より年上のクセにだっせーの!そんなだから石田なんかにナメられるんだよ!」

秀秋「いっ今三成くんのことは関係ないだろっ!?」

いつき「蘭丸!鍋のお侍さも静かにするだ!怪しまれちまうべ」

宗麟「しかしこうもいないと布教のし甲斐がありませんねぇ…折角入信希望書をこんなに、」

鶴姫「何言ってるんですか宗麟くん!今日は布教じゃなくて芙蓉ちゃんに会いに来たんでしょう!」




そう、この至極珍しい面子が揃った訳柄は忍術学園に入学してしまった芙蓉に会いに来ることであった。
歳が近い事もあり、特に鶴姫、秀秋、宗麟は同い年であって避けられることも多々あったがそこそこ仲も良く、一般でいう彼らは芙蓉の“友人”である。
それも人付き合いが破壊的に出来なかった芙蓉の唯一の友人と言ってもいい、と彼女の兄佐助が豪語する程だ。




いつき「でも芙蓉姉ちゃん何処にもいねぇだよ?」

秀秋「そうだよッ今日は諦めて宗茂さん捜しに行こう!?」

宗麟「それじゃあ城下町で宗茂を撒いた僕の労働が無駄になるでしょう!?」




まだまだ童である彼らだけは危険だと引率に宗麟の従者“立花宗茂”が自ら申し出るがあろうことが主君に撒かれてしまった西の立花。
今頃くしゃみをして見失ってしまった主と鶴姫たちを必死に捜しているのだろう。




鶴姫「幸いなことに今は誰もいませんからきっと見つかりませんよ!」

秀秋「だから勝手に入っちゃったら拙いって鶴姫ちゃん…!」

鶴姫「まあ失礼ですね金吾さん!勝手に入るのではなく黙ってお邪魔するんですよ?」

秀秋「どっちにしろ勝手に入っちゃってるよね!?」




鶴姫と『帰ろう!』と涙目で未だしつこく訴えてくる秀秋の遣り取りに、気の短い蘭丸は額に青筋を浮かばせ振り返った。




蘭丸「さっきから諄いんだよお前!そんなに帰りたかったらお前だけ帰れよ!」

秀秋「そんなぁ〜〜!?僕一人じゃ帰れないよぉ〜!」

鶴姫「仲間外れはよくないですよ蘭丸くん!金吾さん、良かったら私の手に掴まってくださいな」

秀秋「鶴姫ちゃんん゙ん゙ん゙」

いつき「おらも手伝うだ!」




唯一手を伸ばしてくれる鶴姫といつきの優しさに秀秋は帰ることも忘れ、その手を取りヘラリと笑う。
こういう状況に不本意ながら慣れてしまった宗麟も『仕方ないですね、一つ貸しですよ』ともう片方の手を取る。
締まりのない笑みを浮かべる秀秋に蘭丸は『けっ』と視線を逸らし、三人が『せーのっ』と掛け声を合わせて引き上げたその時。




小松田「ちょっと君たち〜〜〜!」

「「「ぎゃあああ/いやあああ〜〜〜!!!?」」」




知らない声に秀秋を引き上げようとした三人は驚き思わずその手を離し、悲鳴に相次ぎドシンッと秀秋は地面へと尻から落下。
ゆっくりと振り返れば、箒を持った男性が自分たちを見上げていて鶴姫たちは『見つかった』と互いに頬を引き攣らした。




いつき「み、見つかっちまっただ…!」

秀秋「ひいいいぃ…!ごめんなさいッごめんなざいぃぃいい!」

宗麟「は、早く僕の盾になるのです!骨ぐらいならサビー様の庭に蒔いてやりますから!」

蘭丸「ずええええってえええ嫌だ!!!!」

鶴姫「み、皆さん落ち着いてください!」




動揺が動揺を呼び、宗麟のあんまりな言い草に蘭丸がキレて喧嘩に。塀の下では鍋の盾に籠る秀秋と証拠隠滅と言わんばかりにハンマーを担ぐいつき。
誰一人冷静な者はおらず、こんな時あの凛とした彼女はどうするのだろうと鶴姫が腕を組んで考えていると箒片手の小松田は再度呼びかけた。




小松田「勝手に登ってもらっちゃ困るよ!君たち何処の子?」

鶴姫「わ、私たちはそのっえぇっと…、へ…編入生ですッ!」

「「「え」」」

小松田「編入生?」




鶴姫は『編入することになった』と送られてきた芙蓉の文を咄嗟に思い出し、首を傾ぐ小松田に慌てて頷いてみせた。
エへ☆、と笑ってみせる鶴姫に蘭丸たちは『いやいやいや』と内心首を横に振る。
目の前の相手は一般人ではなく【忍】だ、情報のプロである彼がこんな子供騙しの嘘に引っ掛かるだろうか。いや、引っ掛からない。
蘭丸たち終了をお知らせする鐘が鳴り響くなか、当の小松田は可憐な笑みを向ける鶴姫にへにゃりと笑って見せた。




小松田「そっかあ〜!そうならそうと門から入れば良かったのに!」

「「「だぁ――ッ!!」」」




『門はこっちだよ』と親切に案内する小松田の背を唖然と見送り、危機を回避できた鶴姫は振り返りピースして見せる。




鶴姫「嘘も方便とはこのことですね!」

「「「(それでいいのか忍の寺小屋…)」」」




何とも微妙な気持ちにさせられた蘭丸たちであった。










小松田「うん!みんなすっごく似合ってるよ!」




見事鶴姫に騙されてしまった小松田は倉庫から忍たま、くのたまにしか与えられない制服を手渡した。
更衣室に案内し、着替え終わった彼らが横一列に並ぶと小松田はニコリと笑んだ。





鶴姫「うわぁ〜!とっても可愛らしい装束です〜」

いつき「おらっまるで本物の忍になったみてえだ!」

宗麟「うゔ…何故黒は教師のみなのですか…!納得できませんっ」

蘭丸「あっはは!金吾、芋虫みてぇ!」

秀秋「み、緑って落ち着かない…」




鶴姫といつきは女の子らしい桃色に花柄模様のくのたま用の忍装束。
対して蘭丸は四年生カラーの紫、宗麟と秀秋は六年生カラーの深緑の忍装束に身を包み、感想は感動から不満まで様々だ。




小松田「はい、これが宗麟くんたちと蘭丸くんの教科書“忍たまの友”。こっちが鶴姫ちゃんたちの“くのたまの友”!外に持ち出したり無くしたりしたらダメだよ」

「「「はーい」」」

小松田「じゃあ学園長先生にご挨拶に行こうか」

「「「え」」」

小松田「え?」




ここで再び四人に危機が訪れた。“学園長”とはつまりこの寺小屋の長、流石に長は騙されたくれないだろう。




蘭丸「ら、蘭丸たちもうがくえんちょー先生に会ったからいい」

小松田「そうなの?でもここ最近の入門表には、」

蘭丸「いいんだよ!蘭丸が会ったって言ったら会ったんだよ!しつけぇと信な、ぶッ!?」

いつき「お、おらたち自分でがくえんちょーに会ってくるだよ!だから事務の兄ちゃんは仕事戻ってけろ!」




身元がバレる尾張の総大将の名を明かす寸前で隣からいつきに頬を押さえ付けられて引っくり返る蘭丸。
倒れた蘭丸に首を傾ぐ小松田にいつきが何とかフォローしつつ、悶える蘭丸が起き上がらない様に押さえ付けた。




鶴姫「今からパパッと挨拶してくるのでご心配いりません!」

小松田「…そう?じゃあ僕戻るけど、もし何かあったら先生に声を掛けるかさっき教えた事務室に来てね?」

鶴姫「はい、ここまで良くしてくれてありがとうございました」

小松田「これが僕の仕事だから気にしないで!じゃあ頑張ってね〜!」





もう一度鶴姫といつきがお礼を言えば、小松田は手を振って曲がり角に消えて行ってしまった。
完全にこの場を去ったか気配を探り、しんとなる廊下で4人は笑みを浮かべ合う。




鶴姫「では、早速芙蓉ちゃんがいる教室に向かいましょう〜!」

「「「おお〜!」」」

秀秋「ちょ、ちょっと待ってみんな…!」




折角一致団結とした掛け声の中、一人秀秋だけがオロオロと視線を泳がし女子の様に手元を弄っている。
一気に気が削がれてしまった蘭丸は眉間に皺を作るとぽっちゃりとした秀秋の腹を突いた。




蘭丸「何だよ!この期に及んでまだ帰りたいとか言うんじゃないだろうな!?」

秀秋「違うよぉ!た、ただ芙蓉ちゃんがいる教室って…、何処にあるの…?」

「「「……あ」」」




「はっくしゅん…!」

乱太郎「大丈夫ですか芙蓉さん?」

しんべヱ「花粉症?風邪?」

「いや…身体は大丈夫だ、…花粉症か?」

きり丸「それかどっかで誰かが芙蓉さんの噂してたりして〜」





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