【2009】

□命日
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6月30日 
高杉晋助・享年29歳
死因・結核
最期のお顔は穏やかなものだったと聞き及んでおります…






それはバカみたいに良い天気の
眩暈がするほど穏やかな日の出来事でした










「晋助様…」
「……いらねぇ」

都会の喧騒から遠く離れた山の中にぽつんと、けれど、そぐわないほど立派な屋敷がひとつ
その屋敷の一番日当たりが良く、一番風通しが良く、一番景色の良い部屋の真ん中に上等な布団が一組敷かれている
部屋の主は高杉晋助29歳。つい先月までテロリスト部隊・鬼兵隊を率い、総督の立場にあった男だ

「少しだけでも…」
「いらねぇんだ……」

いらない、と、首を振る姿はとても元過激派テロリストで全国指名手配犯とは思えないほどに弱々しく、痩せ細っていた


高杉はかなり以前より、風邪を引きやすくなった。と溢していたが、先月の中頃、皆の前で咳き込んだ後、大量の血を吐いて倒れた
闇医者に診せた所、診断結果は【結核】
それもかなり進んでしまっていて、もう手の施しようがない、と
今日明日に、とはならないが、このままの生活を続ければその日が遠い未来ではないとさえも言われた
そして、感染もするのだとも教えられた
高杉は己の体が良からぬ病に冒されていたことには気付いていたらしい
病気が病気だ。恐らく、周りに気付かれる事なく何度も血を吐いたに違いない
血の臭いはいくらでも誤魔化せる

医者の話を聞いた高杉は皆を大広間に集め、一言、鬼兵隊の解散を告げた
異議は認めない
短くキッパリと告げられた解散宣告は、そうも言っていた
突然の解散宣言にうろたえる部下を残し、高杉は自室へと戻る

移る病気
肺が焼けるように痛い、熱い
眩暈がする…
高杉は壁を伝い、己の体を引きずるように歩いていた




そしてその夜…いや、深夜

戦艦をそっと後にしようとした高杉の姿

「遅いでござるよ、晋助」
「何処までも一緒ッス、晋助様!!」
「お供致します」
「そろそろ人を斬るのも飽きたねぇ」
「……お前ぇら…」

いつもの顔ぶれが当然の様に荷物を片手に高杉を待っていた
予想もしなかったその出来事に呆気にとられた高杉だが

「ばっ!!馬鹿かテメェらっ!!なんでそんなっ…!!」

当然の様に一緒に行くと言ってくれるのだ

「実は鬼兵隊全員で行くと言い出したのでござるが、そうすると目立つし、何より晋助の体に障る。皆には遠慮してもらったでござるよ」

苦笑いで万斉が言って

「高杉総督」

後ろから呼ばれた

「……っ!!」

振り返れば、全員が甲板に出ていた

「なんっ…」

声が出ない、罵ることも出来ない

『行ってらっしゃいませ!!!』

戻る事が叶わないと分かっていても、いつか必ず戻って来てくれるのではないかと思ってしまう
そう思わせるのだ、高杉晋助という男は

「晋助」
「晋助様」

万斉はサングラスに遮られていて表情が読めないが、また子は涙目になっている

「……っこの、バカヤロウどもが…
行ってくらぁ、留守は頼んだぜ」

その日から高杉晋助をはじめとする鬼兵隊幹部の消息が掴めなくなった


◇◆◇◆◇


「山の中もいいものでござるな」
「ああ」

指名手配をされている事もあり、高杉たち五人は強行軍で移動した
その時の無理がたたり、高杉は屋敷に着いてからの数日間、高熱を出して臥せってしまっていたが、熱が下がった今はその分体が楽なのか、縁側に出て外の景色を眺めている
傍には万斉の姿

「晋助、寒くはないか?」
「大丈夫だ」

返ってくるのは穏やかな返事

「今の時期は緑が多い。風も冷たくない故、少し休むにはいい気候でござるな」
「晋助様、万斉先輩おやつッス」
「また失敗ケーキでござるか?」
「うきぃーー!!!めっちゃ失礼ッス!!今回は上手く出来たッスよ!!」

今までろくに台所に立ったことのなかったまた子は先日、高杉におやつを作るのだと言ったまでは良かったが、外は黒焦げ中はドロリ生焼けという、誰がどう見ても失敗。としか言えないホットケーキを焼いたのだ
だが、万斉と武市が火力調節などを教えればきちんと理解して、次の日からは簡単な炒めものくらいなら出来る様になった
まあ、味付けが少々独特ではあるが…





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