【2009】

□お付き合い記念日
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「…んだぁ、こりゃぁ?」

高杉はそれを目の当たりにするなり、訝しげに呟いた
それはそうだろう。高杉でなくともたぶん同じ言葉を口にする
己の部屋に(部屋の前から)真っ赤な薔薇の花が咲き乱れていたら

「あ、晋助さ…うわっ!!?」

たまたま通り掛ったまた子でさえ目の痛くなるような赤の洪水にすっとんきょうな声を上げ、ぎしりとフリーズした

「な、なんか船の中が匂うと思ったらこれだったんスね…」

フリーズが解けた後も何となくそれを避けながら、また子が高杉の側に寄る

「えと…これ、どうしたんすか?」
「知るか」

部屋の前で立ち尽くした高杉は不機嫌に吐き捨てて、中に入れずにいる
と、そこへ

「晋助、気に入ってもらえたでござるか?」

出た、変態
高杉とまた子が同時に心の中で呟いた

「ってぇと、犯人はテメェか?」
「もうそれ以外考えられないッス…」

痛いものを見る目で二人揃って口にした

「今日は折角の記念日でござるから、万斉頑張ったでござるよ」
「うわっ、キモッ!!」
「引くッス先輩…」

頑張ったとキュラン☆と輝く万斉に高杉とまた子は比喩でなく実際一歩引いた

「晋助、派手なものが好きでござろう? だから拙者今日は派手に決めようと思って用意したんでござるよ」

そう言って差し出したのは大輪の薔薇の花束
色はやはり紅

「そうやって薔薇の花束を持ってんのが様になるのも腹立つな」
「先輩、顔だけはいいッスからね…」

黒レザーにサングラス、紅い薔薇の花束
嫌味なはずのそのセットがぴったりはまるものだから更に嫌味ったらしい

「あ、そうだ。記念日って何ッスか?」

どうにかこうにかこのどうしようもない状況から逃れたくてまた子が高杉に話を振ったが

「…さあ?」

本気で分からないらしく首を傾げてみせる

「イヤでこざるなぁ。今日は6月30日、拙者と晋助が付き合い始めた日でござるよ!!」
「…あぁ〜」

そうだったそうだったと手を打つ高杉
かなり適当に
そんな姿を可愛いなぁと呟きつつデレンとするのだから万斉には目もあてられない

「むう。バカらしいんだか羨ましいんだか分からないッスね」

呆れた声のまた子。でも、高杉の姿が微笑ましいのは本当なんだろう
にっこりと微笑むと

「それじゃあ晋助様、あたしは失礼するッス」
「おう」

片手を上げて返事をし、また子を送り出す高杉

「晋助」
「あんだ?」
「プレゼントもあるんでござるよ」

ニコニコと嬉しげに部屋の襖に手を掛けて中へと入って行く

「…俺の部屋なんだがな」

呟いたものの、勝手に出入りするのは何時もの事で、高杉も五月蝿く言わない
それでもやはりため息は出てしまうもので…

「晋助、早くするでござるよ」
「うっせぇ馬鹿万斉」

ノーテンキな万斉の声にイラッとした


◆◇◆◇◆


「晋助少し前に盆にヒビが入ってしまったと言っていたでござろう?」
「ああ」

長年愛用していた煙菅の盆をついこの前にうっかり落としてしまい、ヒビが入ってしまったのだ

「これを」

そう言って出されたのは、骨董、とまでは行かないが、それなりに使われて味が出てきた煙菅盆
蝶の細工が細かく丁寧に施されていて、思わず

「…ほぅ」

と,見入ってしまう

「気に入ってもらえたでござるか?」
「ああ」

手にとり、じっくりと見ている様子を見て万斉も満足したらしい
気に入ったか? と訊く様は誇らしげでさえあった

「また来年には違う物を贈ろう」

その次の年も贈り物をしよう
ずっとずっと今日という日を祝うために

「ああ」
「また一年宜しくお願いするでござるよ」
「そりゃ、年始の時の挨拶じゃねぇか」

ブッと吹き出して高杉は盆を置く

「なぁ万斉」
「ん…?!」
「……ありがとよ」

ちょんと触れるだけの口付けをひとつ
ありがとうもひとつ
バカらしい程大量に集められた薔薇の花
掛けた代金だってバカみたいに違いない
煙菅盆にしたってきっと古美術店や古道具屋などを探して歩いたのだろう
言いたい事は山ほどある
だけど
今はこれで充分

「こちらこそ、ありがとうでござるよ」





END
 

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