【2009】

□結婚記念日(R18
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何時もはガヤガヤと煩いのに、今日、この時間、今だけは厳かでしめやかな空気が流れている
やがて聴こえ始めた雅楽


巫女姿のまた子が襖を開け、控えていた主役二人を中へと先導してくる
続いたのは媒酌人役を務める武市
両親や親族は呼んでいないので続かないが、仲間達は全て会場である大広間に揃っている
そして最後に斎主役である似蔵が入ってくる

「只今より、新郎河上万斉と、新婦高杉晋助の婚礼の儀式を始めるッス」

また子は案内役と典儀(司会進行役)も兼ねていて、みなが落ち着いたのを見計らい、式の始まりを宣言した

「では…」

斎主役である似蔵の拝礼に合わせて一堂が起立し、神前に礼
それからケガレを祓い祝詞を奏上する
そうする事で神や氏神、祖先神にいたる神々に二人の結婚を報告し、加護を願うのだ
それが終われば

「三三九度でございす」

媒酌人役の武市が新郎である万斉の杯にお神酒を注ぎ、先ずは万斉が一口。次に新婦である高杉が受け取り一口。残りを万斉が飲み干して、空の杯を高杉へ渡す。高杉はその杯に武市から媒酌され、そのまま一口。そして万斉に渡し、残りを今度は高杉が飲み干す。もう一度最初と同じ様に万斉、高杉、万斉の順で一杯受け、これで三三九度となる(現在は時間短縮のために略す事が多い)

「お二人、前へ…」

似蔵の言葉に万斉と高杉は前に進み出て、次は誓いの言葉を読み上げる
本文は万斉が一人で読み、名前の部分は二人一緒に読み上げる

「これで、夫婦でござるよ晋助…」
「ああ」

新郎新婦の役目はこれでほぼ終わり、祝いの挨拶などは右から左に流されたり

「腹へった…」
「もうすぐ披露宴でござるよ」
「だりぃ…」


◆◇◆◇◆


場所は変わって先ほどの広間より船内で次に広い広間
ところ狭しと並べられた料理料理料理。今日の為にと前日から仕込みをしたり、取れたての鯛や旬の食材を手配してかき集めたのだ

「ほら晋助、お煮しめでござるよ」
「帯がきつくて食えねぇよ。早く脱ぎてぇ…」

普段かなりゆったりと着物を着ているのだから、確かに今の姿はかなり苦しいものだろう

「ふむ。お誘いも嬉しいが今ははやりその姿をもう少し堪能したいでござるな」
「言ってろ馬鹿」

ぷいっとそっぽを向く高杉だが、その横顔は酒のせいだけでなく、仄かに朱がさしている
いつもの京紫も似合うけれどやはり今日の白も良く似合う
白と言えば

「はぁ〜晋助のウェディングドレス姿も見たかったでござる。そうしたら拙者、サムシング・フォーをちゃんと揃えたでござるよ」

さも残念と言わんばかりの万斉

「さむ…?なんだァそりゃ?」

万斉の電波発言は何時もの事だが、こういった事にまで詳しいのか?

「結婚式の時に花嫁が身につけていると幸せになれるという4つのアイテムの事でござるよ」
「………どっからそんな情報手に入れてくんだよオメェ……」

恐らくそれらは花嫁が集めるべきであろうものを…

「で、その4つのアイテムって何なんスか?」

普段は銃を振りかざし、男連中と張り合っているまた子が、やはり女の子。興味を持ったらしく続きを促している

「何かひとつ、新しいもの
何かひとつ、古いもの
何かひとつ、借りたもの
何かひとつ、青いもの」

唄うようにスラスラとつづけ、暫し考えて

「そうでござるな…例えば新しいドレス。家族から譲られたレース。友人や親しい隣人からかりたハンカチ。白いガーターに巻いた青いリボン…などは如何でこざろう?」
「へぇー…」

万斉の講釈にまた子は感心したように頷いてはいるが、高杉はドレスを却下して本当に良かったと心底思っていた

「おや、マザーグースですか?」
「武市…知ってんのか?」

ひょこっと現れた武市が万斉の話を拾っていた

「ええ、多少は。子供たちも言葉遊びは大好きですから」
「……そうかよ」
「誰が殺したクックロビンやキラキラ星、ハンプティダンプティなどが有名ですね」
「で、さっきのは?」
「さっきのと申されますと?」
「新しいのとか古いのとか…」
「ああ。何かひとつ新しいもの、何かひとつ古いもの、何かひとつ借りたもの、
何かひとつ青いもの、そして靴には6ペンス硬貨…ですね」

スラスラと言う武市に高杉はやや引きつつも訊かずにはいられなかった

「何か,意味でもあんのか?」
「もちろんあるでござるよ晋助!!」
「おわっ?! …居たのかよ」
「酷っ!! 酷いでござるよ晋助!!」
「ああ,わりィ」

演技と分かっていても万斉に悲しい顔をされるのは辛い。高杉も釣られてシュンとしてしまう…
それを見た武市が

「…やれやれ,あなた方は目の毒です。さっさと部屋に戻られてはいかがですか?」

追い払うように言ってはいるが,今日この日が喜ばしいのは当の本人たちだけではないのだ
また子武市似蔵を始めとする鬼兵隊の面々も待ち望んでいた日でもあるのだから
まあ,共通して,相手が万斉なのが気に入らない。だが,高杉が幸せならまあいいか…
と,言う所だろうか

「そうでござるな。晋助」
「何だよ?」
「戻るとするか」
「……ああ」

差し出された手に己のそれを重ね,高杉はそっと頷いた





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